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はじめに
薬局売却において、価格や買い手だけに注目してしまうと、法務・コンプライアンスの落とし穴に気づかないままトラブルに発展することがあります。
薬局は医療機関と密接に関わる事業であり、医薬品医療機器等法(薬機法)や労働法、個人情報保護法など、数多くの規制に対応しながら経営されています。
本記事では、薬局売却における法務・コンプライアンスの重要ポイントを整理し、リスク回避の実務的対策を解説します。
薬局売却に関わる主な法務リスク

1. 契約条件の不備
- 売却金額や支払い方法の曖昧さ
- クロージング条件が不明確でトラブルに発展
さすがにまともな仲介が入っていれば、譲渡対価の支払い方法についてあいまいになることはありません。(個人間売買だとこの辺からすでに怪しいですが)
ただ、クロージング条件に関してはしっかり詰めておく必要があります。大規模な案件であればあるほど、起こり得る事象の可能性は指数関数的に増加します。全ての可能性を追求することは不可能でも、重要度の高いモノはしっかり契約に落とし込む必要があります。
よくあるクロージング条件には、医師や地主の承認があります。厳密に言えば医師に承認権限はありませんが、門前Drの承認ないままに買いたいと思う買い手はいません。
薬局が賃貸であれば不動産オーナーの承認は多くの場合で必要になります。
多くの不動産賃貸借契約にはCoC条項があるためです。
詳しくはお問い合わせください。
2. 許認可の承継
- 薬局開設許可の名義変更や再申請
- 保険薬局指定の承継がスムーズに行えないと、営業停止リスクがある
保健所も厚生局もお役所仕事なので、事前相談は必須です。
絶対にAIに聞いてはダメですよ。
A県の事例が余裕でB県で否定されるのがお役所ですので。
少し仕事に慣れてきたM&A担当者がおちいりがちが失敗パターンです。
自社の地元の保健所や厚生局で通用した常識が、他県で通用すると思ったら大間違いです。
3. 労務関連のリスク
- 労働条件の不利益変更による従業員トラブル
- 労働契約の引継ぎに関する法的義務を軽視すると違法となる
一部SMBにおいては慣例で違法就業がまかり通っています。
残業代をつけてないとか、有給はなしとか・・・
当然、コンプラ違反なので買い手は自動的に改善することになります。
しっかり把握していないと株価の修正にまで発展することもあります。
4. 個人情報保護
- 患者の処方データやカルテの扱いは厳格な管理が必要
- 個人情報保護法やガイドライン違反は重大なリスクに
5. 秘密保持
- 売却交渉過程で知り得た情報が第三者に漏れるリスク
- NDA(秘密保持契約)の徹底が不可欠
M&Aは金融取引なので厳密な秘密保持が求められます。あなたの常識は関係ありません。
文字通り契約書の文言そのままに秘密は厳守してください。
例えば、私にも妻子がいますが、M&Aの際には○○県に行くとしか伝えません。
どんなにあなたが「絶対に秘密にしてよ」と言っても、開示された人はあなたの十分の一も秘密を守る意識はありません。
M&Aの秘密保持は絶対です。例外はありません。
売却プロセスで重視すべき法的ステップ

1. NDA(秘密保持契約)の締結
- 初期段階で必ず締結し、交渉過程の情報漏洩を防ぐ
2. 基本合意契約(LOI)の締結
- 売却価格やスケジュールを大枠で合意
- 独占交渉権やデューデリジェンスの範囲を明記
3. デューデリジェンス(DD)
- 法務DD:契約書・許認可・コンプライアンス状況を精査
- 財務DD・税務DD・労務DDと併せて包括的に実施
一定規模以下であればDDは省略されるのが一般的です。逆に、財務リスク等を回避する意味でも事業譲渡が選択されます。個人間売買では十分なDDは現実的でないので、自動的に株式譲渡は避けるべきスキームと言えます。(融資も難航します)
4. 最終契約(SPA)の締結
- 売却金額・支払方法・クロージング条件を明記
- 表明保証条項を設定し、後日トラブルを防止
例え小規模案件であっても最終契約書のリーガルチェックは受けましょう。
繰り返しますが、AIはダメですよ。
法的責任は締結当事者同士にしかありません。
表明保証条項の重要性

買い手は「売却後に隠れた債務や法令違反が発覚するリスク」を懸念します。
そのため契約書には「表明保証条項」が盛り込まれるのが一般的です。
例:
- 薬局は薬機法その他法令に違反していない
- 従業員との労働契約に未払い残業代等のトラブルはない
- 許認可は有効に存続している
👉 売り手が虚偽の表明をした場合、損害賠償請求や契約解除のリスクがあります。
売り手に限らず、表明保証条項は厳守になります。
契約書に慣れていない当事者(多くの薬局オーナーが該当)であっても、その効力は当然に発生します。「そんな意味だと思わなかった」、「説明してくれなきゃわからない」などの言い訳は裁判所では通用しませんので、自信のない方は契約前にしっかり確認しましょう。
実務で注意すべき法務・コンプライアンスチェックリスト

- 薬局開設許可・保険薬局指定の名義変更手続きの確認
- 過去の労務トラブルや未払い賃金の有無を整理
- 個人情報保護の体制が整っているか
- 医薬品の仕入れ契約や調剤報酬請求に不備がないか
- 関係する医師・病院との契約関係に法的問題がないか
成功事例と失敗事例
成功事例
関東のA薬局は、売却前に法務チェックを徹底。
許認可の承継準備や労務リスク整理を済ませたことで、買い手からの信頼を得てスムーズに契約成立。
失敗事例
関西のB薬局は、従業員の未払い残業代が発覚。
買い手から譲渡対価を引き下げられた。
弁護士・専門家を活用するメリット

- 契約書の不備を事前に防げる
- 表明保証条項や違約金条項のリスクを最小化できる
- 買い手・売り手双方の法務リスクをバランスよく調整できる
👉 仲介会社任せにせず、必ず弁護士や法務専門家と連携することが望ましいです。
不動産取引と違い、M&Aにおいて仲介会社が最終契約に当事者として登場することはありません。それはつまり、契約した以上は売り手と買い手にのみ法的責任が発生するということ。
仲介の担当者に言われるままにハンコを押したとして、あなたの責任が免れることはありません。繰り返しますが、不安であればリーガルチェックを受けてください。ほんの数万円で安心が買えると思えば安いものです。
まとめ

薬局売却は、財務や価格だけでなく法務・コンプライアンス対応が成功のカギを握ります。
- 契約条件・許認可・労務・個人情報の管理を徹底する
- NDA・基本合意・デューデリジェンス・最終契約を適切に進める
- 表明保証条項でリスクをカバーする
- 弁護士や専門家を積極的に活用する
いかがでしたでしょうか。
M&Aは複雑な金融取引です。初めてであれば、不慣れなのはしょうがありません。しっかり対策することで自身の不利益を防ぎましょう。
次回は「薬局売却における、従業員との雇用契約 トラブルを防ぐためのポイント」をお届けします。
雇用契約の扱いと売却スキームの関係や従業員への告知タイミング、離職防止などこのテーマは論点が盛りだくさんです。是非ご参照ください。