薬局売却と買収監査(デューデリジェンス)|高値売却とリスク回避のための必須プロセス

薬局売却とデューデリジェンス 薬剤師独立

Contents

はじめに

薬局を売却する際に避けて通れないのが「買収監査(デューデリジェンス)」です。
デューデリジェンスとは、買い手が対象企業を調査し、財務状況や法務リスク、労務体制などを確認するプロセスを指します。

薬局は医療制度に基づいて運営される事業であり、行政規制・労務管理・薬歴管理など多岐にわたるチェック項目があります。
適切に対応できなければ、売却価格の減額や交渉決裂につながる可能性もあります。

本記事では、薬局売却における買収監査(デューデリジェンス)の流れと、売却側が準備すべきポイントを整理します。

皆さん、こんにちは。YAKUDACHI鈴木です。
今回は薬局M&Aとデューデリジェンス(よくDDと言われます)についてです。
目的や流れは後述しますが、売り手社長にとってはあまり歓迎すべきイベントとは言えません。
DDでは、最終契約前に買い手(とその代理で会計士やその他専門家)によって社内資料を精査されます。当然、売り手社長もヒアリング対象として一定時間拘束されます。

我々は当たり前としてDDに立ち会いますが、初めて売却を経験する多くの薬局社長の場合には、結構ストレスフルなイベントになります。
すっごく雑な表現をすれば、DDは売り手社長のウソや漏れがないか確認する作業。悪意ある売り手から買い手が損失を被らないよう、基本的には疑ってかかります。
もちろん、丁寧な表現に終始するよう仲介としても注意しますが、そうは言っても、イベントの趣旨が趣旨ですので、あまり気分のいいものにはなりえません。

あなたが薬局をはじめて売却する経営者だとすれば、DDがそもそもなぜ必要なのかを理解し、そのうえで、できる協力はすることです。
自分の会社の事についてとやかく言われるのは、嫌だという、その気持ちはわかります。ただ、DDなしで一定規模以上の案件がすすむことは無い必須プロセスだということはご理解ください。


デューデリジェンスの目的

  1. 財務状況の確認
    • 売上・利益・キャッシュフローの正確性をチェック
    • 薬価改定や在宅医療の影響も加味
  2. 法務リスクの把握
    • 契約書・許認可・行政指導歴の確認
    • コンプライアンス違反の有無を調査
  3. 労務環境の確認
    • 薬剤師やスタッフの雇用契約、残業管理、離職率など
    • 労基署からの是正勧告の有無
  4. 事業の持続性評価
    • 処方箋の発行元との関係性
    • 地域医療連携や在宅医療対応の体制

DDの切り分け方については、学術的なことはさておき、①財務DD、②法務DD、③事業DDに分けられます。薬局のほぼ全ては中小企業なので焦点となるのは①と③です。
売り手から提出されている財務内容を精査して、企業実態と資料の整合性を確認する(財務DD)のは主に会計士に依頼します。事業DDは買い手企業が大手であれば、M&A担当者が実施する場合が多いです。
ちょっとマニアックになりますが、買い手企業としては財務DDを依頼する会計事務所は慎重に選定する必要があります。
M&Aに不慣れな会計士が担当すると、売り主社長のご機嫌を損ねて、最悪破談にもなりかねません。初めて組む会計事務所であれば、財務DDにどのくらいの精度を求めているか、売り主とのリレーションはどの程度構築されているかなど、事前打ち合わせが必要になります。
例えば、在庫金額は1円単位まで正確性を求めるのか、1%程度までならズレを許容するのか、未払い賃金は?過年度税務申告は?などなど、自社の求める正確性の基準を擦り合わせるということです。
そんなこと言われなくてもわかるだろう、と言ったところで後の祭りとならないために、しっかり事前準備しましょう。


デューデリジェンスの流れ

  1. 基本合意書(LOI)締結後に実施
    • 価格や条件が仮決定した後に詳細調査を行う
  2. 資料請求・データルーム設営
    • 決算書・薬局台帳・レセプトデータ・契約書類を開示
  3. 現地調査
    • 店舗訪問により設備・在庫・運営状況を確認
  4. リスク分析と報告
    • 買い手がリスクを評価し、最終的な買収価格や契約条件を決定

DDの実施は通常LOI締結後になります。ただ、そもそもLOIを締結せずに意向表明から一気に最終契約にいくケースなどでは、最終契約前の適当な時期に行います。
データルームは、よほど大規模な案件にならなければ薬局M&Aでは設置されません。


売却側が準備すべき事項

  1. 財務資料の整備
    • 決算書・試算表・借入明細を最新化
    • 売上・利益の推移を説明できるように整理
  2. 許認可・契約書類の確認
    • 薬局開設許可証・保険薬局指定通知書を揃える
    • 賃貸契約書や取引先契約を確認
  3. 労務管理体制の見直し
    • 雇用契約書・就業規則を整備
    • 長時間労働や残業代未払いリスクを解消
  4. コンプライアンスの徹底
    • 薬歴・レセプトの整合性をチェック
    • 行政指導履歴がある場合は改善策を提示

あくまで大手が買い手のケースを想定すると、労務管理まわりの正確性はかなり強く求められます。これは、大手が厳しいというよりも、上場企業の財務資料の正確性が市場から求められているためで、外部要因になります。
売り手社長にはこの点を知っておいていただきたいですね。
大手に売るということは、多くは上場企業の子会社になるということ、当然に市場の求める水準まで引き上げられることになります。
例えば、中小企業であれば給与は払った日が経費計上のタイミングですが、大手は費用発生のタイミングで経費計上します。つまり、支払う前(もしくは後)に費用として認識しなくてはなりません。同様に賞与や退職金についても引き当てます。
と、言うことは杓子定規に解釈すれば、売り手企業が支払日に給与を経費計上していた決算書を基に計算された株価を、発生日に経費認識したとして再計算する必要が出るということです。(だいたい株価の減額要因です)
この辺も、買い手は会計事務所と擦り合わせておく必要がありますね。


成功事例と失敗事例

成功事例

関東のA薬局は、売却前に会計士と弁護士に依頼し、内部監査を実施。
その結果、デューデリジェンスで指摘事項がほとんどなく、予定価格での売却に成功した。

失敗事例

関西のB薬局は、過去の労務トラブルを放置していたため、デューデリジェンスで問題が発覚。
買い手から大幅な価格減額を提示され、最終的に交渉が破談となった。


実務チェックリスト

  • 決算書・試算表を最新化したか
  • 薬局開設許可証・保険薬局指定を確認したか
  • 契約書類・賃貸契約を整備したか
  • 労務管理体制を点検し、是正勧告を受けていないか
  • 薬歴・レセプトに不備がないか

DDのみならずM&A交渉の基本ですが、積極的な情報開示が重要です。
不都合な真実こそ早めの開示を心掛けましょう。あなたが隠したいと思うような恥ずかしい事実があったとしても、正直買い手の担当者からすればよくある話の場合も多いです。
私も大手チェーンのM&A担当者でしたが、当時も大変バリエーションに富んだ経営者の方にお会いしました。ここでは実例は伏せますが、金銭関係や女性問題などなど。正直、大して驚きません。
変に隠して、後から発覚すると株価減額要因ともなりかねません。早めに情報開示しましょう。


まとめ

薬局売却における買収監査(デューデリジェンス)は、価格や条件を左右する最重要プロセスです。

  • 財務・法務・労務・コンプライアンスを総合的に調査される
  • 売却側は事前に資料を整備し、リスクを解消しておくことが重要
  • デューデリジェンスをスムーズに通過できれば、高値売却とリスク回避が可能

いかがでしたでしょうか。今回は薬局M&Aにおけるデューデリジェンスについてお届けしました。DD実施時点では売り手も買い手もM&Aの実現にかなり前向きな最終段階です。思わぬ落とし穴にひっかからないよう、慎重に対応しましょう。