薬局売却と情報開示|信頼を高めて交渉を有利に進める方法

薬局売却と情報開示 薬局 M&A

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はじめに

薬局を売却する際、避けては通れないのが「情報開示」です。
買い手は投資リスクを最小化するため、財務状況・法務・労務・運営体制といった情報を詳細に求めます。
一方で、情報開示が不十分であれば、買い手からの信頼を損ない、売却価格の減額や交渉破談のリスクにつながります。

本記事では、薬局売却における情報開示の重要性と実務上の注意点を解説します。

皆さん、こんにちは。
YAKUDACHI鈴木です。
今回は薬局M&Aにおける情報開示です。
M&Aは非常に機密性の高い取引行為になります。情報開示は慎重に進めるべきですが、反面、かなり突っ込んだ情報開示が買い手からは求められるという相反する性質があります。
よって、交渉の進み具合に応じて(契約の進捗も)情報を開示していくことになります。
文言を素直に解釈すれば、秘密保持契約(NDA)を締結すれば全ての情報を開示しても良いような気もしますが、そうは言っても売り手からすれば、NDAをまいただけで本当に買うのかまだ確定もしていない相手に、懐事情などのデリケートな部分まで開示できるかと言えば、そうもいきません。
NDAはあくまで、開示した情報に守秘義務が発生するだけで、なんでも話せるかと言えばそうではないということです。


情報開示の目的

  1. 買い手のリスク把握
    • 財務・法務・人材・取引関係を正確に提示することで、買い手が将来のリスクを評価できる。
  2. 交渉の透明性確保
    • 情報非対称性を減らし、信頼関係を構築する。
  3. 売却価格の維持・向上
    • 正確で整理された情報を提示すれば、評価が高まり高値売却につながる。

②の情報の非対称性は売り手も買い手も特に意識すべき論点だと思います。
一般的な商取引と違い、M&Aにおいては売り手が圧倒的に情報強者です。
どれだけ買い手が情報開示を求めても、何が開示されていないかという事実は把握することができません。逆に言えば、売り手は開示する情報を選べるということです。また、特に薬局のような売り手市場であれば、交渉力は売り手が持っているといえ、特に買い手はしつこく情報開示を求めることがしづらいのが現状です。
よって、薬局M&Aにおいては典型的な開示資料のリストを利用して抜け漏れの(なるべく)ないようにしています。また懸念点についてはDDで質問することになります。
繰り返しますが、何がないのか?は買い手には見えません。常に足りない情報があるかもしれないと考え交渉すべきです。また、売り手はそんな買い手の疑心暗鬼を誘わないよう、積極的に開示を進めるべきです。

余談ですが、私が大手チェーンでM&A担当者だったころ、株価を試算するときはいつも幅を持たせて算出していました。例えば、A薬局の理論株価は1億2千万~1億5千万のように。
その場合、情報がしっかり開示されていると確信できれば、MAX1億5千万まで交渉上、トライできることになります。逆に情報が取れているか不安に思っている場合には、余裕をもって1億2千万までしかBETできません。
売り手にとっても、情報開示は有用だということです。


情報開示の範囲

  1. 財務情報
    • 決算書、試算表、資金繰り表、借入明細。
    • 薬価改定や経営環境の影響を明示。
  2. 法務情報
    • 薬局開設許可証、保険薬局指定通知書。
    • 賃貸契約、取引契約、リース契約の詳細。
  3. 労務情報
    • 薬剤師・スタッフの雇用契約、就業規則、残業管理データ。
  4. 運営情報
    • 処方箋枚数推移、薬歴・レセプト管理状況。
    • 主な処方箋発行元医療機関との関係性。

上記はいわゆる紙の資料です。だいたいどのM&Aでも開示される資料ではないでしょうか。ただし、これらの情報が全てもれなく開示されたから安心してはいけません。
買い手や仲介担当者は、売り手との対話を通じて周辺情報を取得する必要があります。
繰り返しますが、買い手は売り手が何を開示していないかを知りません。よって、特定の分野に絞ることなく、会話量を増やし、網羅的に売り手法人を把握する必要があります。
簡単に言うと、たくさん世間話をしましょう!ということです。


情報開示のプロセス

  1. 基本合意書(LOI)締結後に実施
    • 秘密保持契約(NDA)を前提に情報開示を開始。
  2. データルームの設置
    • 紙資料だけでなく、電子データをクラウド上で共有。
    • アクセス権限を制御してセキュリティを確保。
  3. 逐次開示と補足説明
    • 初期段階では概要資料、詳細調査段階で追加資料を提供。
    • 買い手の質問には迅速に回答。

売却側が注意すべきポイント

  1. 虚偽・隠ぺいの禁止
    • 問題を隠した場合、後日損害賠償請求や契約解除のリスク。
  2. 過度な開示の回避
    • 交渉初期にすべてを開示すると競合に情報が流出するリスク。
    • NDAを締結した上で、段階的に開示するのがベスト。
  3. 第三者専門家の活用
    • 会計士・弁護士・M&Aアドバイザーにより、正確で整理された資料を作成。

多くの売り手は初めてのM&Aだと思います。特に大手が買い手の場合には、買い手はM&Aに慣れていると考えてよいでしょう。
正直、売り手の考える特殊な事情(金銭面や男女関係など)は買い手からすれば、よくある話でしかありません。変に隠して後から発覚するよりは「実は・・・」と事前に伝えた方が無難です。特に男女関係から、特別な待遇をしている従業員がいる場合などは、譲渡後の給与など、事前に対応が必要になってくるケースもあります。


成功事例と失敗事例

成功事例

関東のA薬局は、事前に会計士と連携し、開示資料を整備。
買い手の質問にも迅速に回答したことで、信頼を獲得し、予定価格以上での売却に成功した。

失敗事例

関西のB薬局は、過去の行政指導歴を隠していたが、デューデリジェンスで発覚。
結果として価格が大幅に減額され、交渉が難航した。


実務チェックリスト

  • NDAを締結してから情報開示を進めているか
  • 財務・法務・労務・運営に関する資料を整備したか
  • 買い手の質問に迅速かつ正確に回答しているか
  • 過度な情報開示によるリスクを管理しているか
  • 専門家のサポートを受けて資料を作成しているか

まとめ

薬局売却における情報開示は、買い手との信頼関係を築き、売却を成功に導くためのカギです。

  • 財務・法務・労務・運営情報を整理し、段階的に開示する
  • 虚偽や隠ぺいは避け、透明性を確保する
  • 専門家と連携し、開示資料をプロフェッショナルに整備する

いかがでしたでしょうか。
今回は薬局M&Aと情報開示についてお届けしました。
会社を売ると決めたなら、積極的に開示しましょう。

次回は「薬局売却と税務対応|M&Aで失敗しないための節税と申告ポイント」をお届けします。M&Aにおいて税務はとても重要です。手取り額という一点においては、買い手選びよりも重要と言えるでしょう。
是非、ご参照ください。