薬局売却と統合作業|PMI(Post Merger Integration)成功ポイント

薬局売却と承継後の統合作業PMIの成功ポイント 薬剤師独立

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はじめに

薬局の売却は契約締結で終わりではなく、実際に承継後の経営を円滑に進める「統合作業(PMI)」が成功のカギを握ります。
どんなに良い条件で売却しても、承継後の組織統合や業務フロー調整が失敗すれば、従業員の離職や患者離れにつながり、買い手企業にとって大きな損失となります。

本記事では、薬局売却後の統合作業(PMI)の重要性、実務対応、成功と失敗の事例を解説します。

皆さん、こんにちは。YAKUDACHI鈴木です。
今回のテーマはPMIです。
あまり聞きなれない単語かも知れませんが、PMIとはM&Aの後に行う事業統合作業のことです。
簡単に言うと、買い手と売り手の業務を擦り合わせ、やり方を統一していくことです。
例えば、給与支払いの日が売り手企業が当月25日払い、買い手が翌月20日払いの場合、多くは買い手に揃えるので、売り手企業の従業員の方からすると、給与が1か月振り込まれないことになります。ただ、従業員個々に事情があるので、急に給与が振り込まれない月があると困ったことになる人もいます。それを一人一人ヒアリングして、問題なければそのまま給与支払い日を変更するだけですが、それでは困るという人には個別に対応していきます。このように、企業と企業が一つになるということは、結構様々な論点が出てきます。問題が出てくるたびに後手で対応するのではなく、「そもそもPMIではこんなところが問題になりやすいよね」というリストを事前に作成し、必要に応じて売り手担当者へヒアリングしておきます。
そんなリストを基に、PMIのスケジュールを立てて優先順位をつけて実施していく。この過程がスムーズであれば統合作業は成功します。逆に、行き当たりばったりで問題が起こるたびに後手後手に対応すれば、手遅れになったり売り手従業員のモチベーション低下といった事態を招きます。
PMIの成否で、従業員の離職を防ぐことが可能です。


承継後の統合作業(PMI)とは

  • PMI(Post Merger Integration)
    M&A後に買収先と自社を統合するプロセスのこと。
  • 薬局における特徴
    • 薬剤師・事務スタッフの定着
    • 調剤システム・電子薬歴の統合
    • 医薬品仕入れ・在庫管理フローの統一
    • 地域住民や医療機関への告知・関係維持

👉 PMIがうまくいかないと、現場が混乱し、売却効果が十分に発揮されません。

他のコラムでも記載してますが、PMIの最重要点はお金周りです。というか企業経営の最重要点でもありますね。
お金周りをどうするか、まずはそこをしっかり確定しましょう。
給与支払いの日時や方法、昇給、賞与、有給休暇や退職金。あなたの当たり前は相手の当たり前ではありません。起業が違えば常識が通用しないと思って、いちから確認する必要があります。とくに中小企業を買収した場合には買い手は基本のキから再確認が必要と思ってください。
マジで中小企業は、その経営者の性格?によって倫理観も制度設計も千差万別、なにが出てきてもおかしくありません。以下は私が実際に目にしたものです。

・在庫を段ボールに入れて、外の物置に保管する
・売上現金を薬の引き出しに入れて保管(というかお賽銭みたいに放り込むだけ)
・棚卸しない(文字通りしない したことがない)
・従業員が会社の備品を勝手に家に持って帰る
・社長が土足で調剤室をうろうろしてる(そして床に落ちた錠剤は3秒ルール!)
・昼休みを休憩時間に含まないで、残業計算、ノーチェックで支給

冗談みたいに思えるかもしれませんが、やっている当人たちはなんの違和感も感じていません。ひとの常識なんてそんなものです。むしろなにが悪いんですか?という感じです。
繰り返しますが、PMIでは基本のキから再確認が必要なんです。


薬局統合作業で発生する課題

  1. 従業員対応
    • 新しい人事制度や評価制度への不安
    • 既存の組織文化との摩擦
  2. システム統合
    • 電子薬歴・調剤システムの違い
    • 在庫管理や請求フローの統一に伴うトラブル
  3. 取引先との調整
    • 医薬品卸やサービス業者との契約変更
    • 支払条件や取引ルールの再交渉
  4. 地域住民・患者への周知
    • 薬局名変更や経営者変更による不安
    • 口コミや噂による患者離れリスク

PMIの大きなテーマの一つがシステム統合です。
レセコンや電子薬歴の統合がひとつ。もう一つは、大手チェーンが買い手となった場合の本部システム(名称は各社それぞれ、要は業績その他の数値データを全社統合するシステム)です。
特に本部システムは、中小企業の場合にはそもそも存在していなかったものなので、既存従業員の人からはその存在意義すら理解されません。
特に事務さんは、M&Aで買われたところで、レセコンは変更になるわ、現金管理は細かくなるわ、提出書類は増えるわで、結構負担が多いです。それに加えての本部システム導入なので、事務さんの負担を十分に考慮してPMIはスケジュールする必要があります。
場合によっては、レセコン変更を遅らせ、データだけ本部システムで吸い上げて、現場の負担を軽くしたり、増員や、一部業務の本部代替も考慮します。買収薬局数が少ない(1~2薬局)であれば本部システムすら導入を遅らせ、その間は本部でデータ入力もありですね。
(ちなみに、本部でデータ入力と気軽に書きましたが、この社内調整もPMI担当者の腕の見せ所です。ミスると「ふぅーん、親会社様は随分気軽にお仕事くださるんですねぇ」みたいな生暖かい視線をいただきます)


統合作業の実務ステップ

  1. PMI計画の策定
    • 売却契約と同時に統合ロードマップを作成
    • 1か月・3か月・半年といった段階的な統合目標を設定
  2. 従業員ケア
    • 全体説明会+個別面談で不安を払拭
    • 処遇変更はできる限り最小化し、継続性を重視
  3. システム・業務フロー統合
    • 移行期間を設けて段階的に統一
    • 現場スタッフの意見を取り入れながら改善
  4. 取引先・地域住民への対応
    • 医薬品卸や医師会へ早期に説明
    • 地域住民向けの告知や健康イベントで安心感を提供

上記、繰り返しますが、PMIではどんなところに論点があるのか、その事前洗い出しが重要です。問題が起きてから対応するのではなく、そもそも企業間の統合でどんな論点があるのか、リストアップしてヒアリングをすすめます。そのうえで、優先順位とスケジューリング、やりながらの社内調整です。優先順位で②→①→③だとしても、社内調整でとちれば③→②→①とせざるをえない時もあります。


成功事例と失敗事例

成功事例

関東のA薬局グループは、買収後すぐに「PMI専任チーム」を設置。
従業員説明会を複数回行い、電子薬歴システムの統合を半年かけて段階的に実施。
結果として離職者はゼロ、患者数も維持され、統合効果として仕入コスト削減も実現。

失敗事例

九州のB薬局は、売却後すぐにシステムを全面切り替え。
スタッフへの説明不足から現場が混乱し、レセプト処理でトラブルが頻発。
さらに従業員の退職が相次ぎ、患者数も減少。結果的に買い手企業の損失が拡大した。


実務チェックリスト

  • PMI計画を事前に作成しているか
  • 従業員への説明会・面談を実施したか
  • システム統合を段階的に進める計画を立てたか
  • 医薬品卸や医師会など取引先への説明を行ったか
  • 地域住民への周知イベントを準備したか

まとめ

薬局売却における「統合作業(PMI)」は、単なる引き渡し手続きではなく、承継後の成功を左右する重要なプロセスです。

  • 従業員の安心とモチベーション維持が第一
  • システムや業務フローは段階的に統一する
  • 地域住民や取引先への誠実な対応が信頼維持のカギ

いかがでしたでしょうか。PMIの重要性は理解できましたか?
M&Aは買ってオシマイではありません。そこで人が働いている以上、さまざまなやり方、考え方、歴史があります。M&Aは金融取引なので、とてもロジカルな側面がある一方、企業活動には、人間の感情や信念のようなパッションの側面も重要になります。
新一万円札渋沢栄一翁の論語と算盤ですね。相反するかのような二つの因子を併存しています。

次回は「薬局売却と家族・親族への説明|承継を円滑に進めるためのコミュニケーション術」をお届けします。M&Aと家族への開示は、同時にNDA(秘密保持契約)との兼ね合いもあります。ご家族は、当たり前ですが経営者ではないので、NDAの重要性は全く理解されません。逆に家業の売却はそれこそ一大事なので、親族一同、降って湧いたような大騒ぎになります。
噂話の広がり方は、あなたの想像を超えます。M&AにおけるNDAの重要性が理解されるなら、そもそもギリギリまで話さない。これが解決策でしょう。買い手との契約で厳密に管理されていたことを、言い訳にすれば、一定の理解は得られるでしょう。
是非ご参照ください。