薬局に就職、大手と中小で迷ったら

薬剤師キャリア




大手と中小って同じ薬局だけど、本当に違いってあるんですかね?

イメージとしては、
大手=研修や福利厚生充実、マニュアル多い
中小=裁量大きいが研修体制や福利厚生に不安
ってとこかなぁ

就活や転職で迷う方のために、一度ちゃんと整理してみましょう。

薬局への就職を考えているけど、大手にしようか、中小にしようか迷っている

同じ調剤薬局で運営会社が大きい事のメリット、デメリットがわからない

そんな疑問をお持ちではないでしょうか。

私はいわゆる大手チェーン出身ですが、個人経営の薬局にいたこともありますし、 学生実習は中小薬局でした。

大手では新入社員研修も担当していたので、多くの新入社員の方とも関わってきました。

あくまで社外から見ている分のイメージでは・・・

大手薬局チェーン研修や福利厚生がしっかりしているが、運営が硬直的でマニュアルやノルマが多く社員の裁量が小さい

中小薬局:若いうちから様々な仕事に携わることができて活躍の幅は広いが、研修体制や福利厚生が弱い

果たして、その通りでしょうか。 実際に大手も中小も経験してきた私と一緒に比較、検証してみましょう。

大手薬局の定義とは

定規

そもそも、大手の薬局ってどんな会社のことを指すんでしょうか。大手薬局とは?について以下のリストに沿って検証します。

  • 日本の薬局運営会社、法人数
  • 調剤報酬に規定されている大手とは
  • 株式市場に上場している薬局運営会社

日本の薬局運営会社、法人数

M&Aが進んでいるとはいえ、薬局はまだまだ中小法人が圧倒的多数です。

日本全体ではおおよそ58,000軒の薬局があると言われていますが、その法人の数は2万社弱あります。そのうちの約95%は3軒以下の薬局を運営する法人です。

会社数で考えると、ほとんど全ての薬局運営会社は小規模だと言えます。(ただし、一部には法人名はそのままに資本だけ大手になっているケースもあります)

調剤報酬に規定されている大手とは

令和2年4月1日施行の調剤報酬によると経営効率が高く調剤基本料が減点となる対象は下記の通り規定されています。

同一グループの保険薬局の処方箋受付回数の合計が月3.5万回超
かつ 次のいずれかに該当する保険薬局
 イ)集中率85%超(同一グループ 月4万回超、月40万回超)
 ロ)集中率95%超(同一グループ 月3.5万回超~4万回以下)

厚生労働省 調剤報酬点数表より著者抜粋

今回の改定から月間処方箋枚数3万5千枚以上、つまり一般的なサイズの薬局が月間処方箋枚数1000枚強なので30~35薬局の会社は大手になるようです。

ちなみに、月間処方箋枚数40万枚以上は更に上の規模ということですが、概ね300薬局超の会社なので、日本に数えるくらいしかありません。

株式市場に上場している薬局運営会社

上場は会社の規模を直接表すわけではありませんが、知名度という意味では株式市場に上場している会社は大手と考えられます。

また、各株式市場には上場基準があり、利益額など一定水準以上の規模が担保されます。

日本の株式市場に上場している薬局運営(している)会社は現在24社あります。(下表参照)

会社名上場市場業種
株式会社スズケン東証1部医薬品卸
日本調剤株式会社東証1部調剤薬局
サツドラホールディングス㈱東証1部ドラッグストア
カメイ株式会社東証1部コングロマリット
株式会社ファルコホールディングス東証1部臨床検査
札幌臨床検査センター株式会社JASDAQ臨床検査
株式会社薬王堂ホールディングス東証1部ドラッグストア
株式会社メディカル一光グループJASDAQ調剤薬局
㈱マツモトキヨシホールディングス東証1部ドラッグストア
イオン株式会社東証1部総合小売
㈱メディカルシステムネットワーク東証1部地域薬局NW
株式会社ココカラファイン東証1部ドラッグストア
株式会社ツルハホールディングス東証1部ドラッグストア
東邦ホールディングス株式会社東証1部医薬品卸
株式会社アインホールディングス東証1部調剤薬局
ファーマライズホールディングス㈱東証1部調剤薬局
㈱バイタルケーエスケー・ホールディングス東証1部医薬品卸
㈱ほくやく・竹山ホールディングス札幌医薬品卸
アルフレッサホールディングス㈱東証1部医薬品卸
ウエルシアホールディングス株式会社東証1部ドラッグストア
シップヘルスケアホールディングス㈱東証1部医療機器卸
株式会社ソフィアホールディングスJASDAQIT
㈱クリエイトSDホールディングス東証1部ドラッグストア
株式会社キリン堂ホールディングス東証1部ドラッグストア
各社IR資料より著者作成

上場企業が偉いわけではありませんが、労働環境も含めて、一定水準以上の運営が担保されているという点では、就職先としての安心感があります。

大手薬局と中小薬局の経営環境の違い

就活や、転職活動において大手薬局と中小薬局を比較する上で、決して外しては考えられない要素に、経営環境の違いがあります。

大手と中小(というか大手以外)の薬局では求められる役割が違います。

これは調剤報酬上の扱いに顕著に表れています。

大きな特徴は門前医療機関の集中率。既述の調剤基本料のところでも書きましたが、大手は集中率が高いと基本料が減産になり、さらには地域支援体制加算の算定難易度が格段に上がります。

そのため、集中率が高い薬局は運営しづらいです。

また、大手の場合には毎年一定数の新卒入社があります。よって薬学生から見た魅力的な薬局になる必要があります。

さらには医薬品仕入れ価格が中小に比べて安い点が挙げられます。

対物から対人へと叫ばれて久しいですが、実は技術料が削られて、薬価差益が取りやすい大手は、対人より対物の方が得意と言えるかもしれません。

薬局を展開しているエリアに関しては、一部チェーンを覗いて基本的には大手薬局は全国展開です。

全国に薬局を展開するということは、薬剤師の少ないエリアも当然含まれますので、異動が発生することになります。

反面、エリアをまたいだ取り組み異業種大企業とのコラボなど、大きな話は大手にしかきません。

  • 大手は集中率を下げたい=モールや在宅に積極的
  • 大手は新卒薬剤師が採りたい=研修や福利厚生など学生ウケが重要
  • 大手は薬価差益が取れる=敷地内薬局に強み
  • 大手は全国展開=異動あり

大手と中小の経営環境の違いを踏まえて、この後は大手薬局のイメージと実際を検証してみましょう。

大手薬局のイメージとホントのところ

皆さんは大手の薬局にどんなイメージを持っていますか?
概ね世間のイメージは以下の通りかと思います。

  • 大手は研修体制が整っている
  • 大手は福利厚生が整っている
  • 大手はマニュアルやノルマで運営が硬直的

私の場合は大手チェーン薬局の勤務経験が長いですが、少しは中小薬局も勤務したことがありますので、各イメージにつき検証していきたいと思います。

大手は研修体制が整っている、は本当か

講義室

一つ目は大手は研修体制が整っている、ですが、これは本当だと思います。

経営環境の違いの項目でも書きましたが、大手は新入社員の採用に力を入れています。そのため、薬学生からみた良い企業に見える必要があります。

薬学生は自身が成長できる環境を求める傾向があり、研修体制が充実していることは、魅力的に映ります。

私の勤めていた大手チェーンでも研修体制は非常に充実していました。研修を行う専門の部署があり、独自の研修プログラムで全国横断的に研修を実施していました。

規模が小さい会社では研修対象となる社員数も少ないですし、実施場所も限定されます。研修に関しては規模の大きい会社が優位にあると言えるでしょう。

大手は福利厚生が整っている、は本当か

露天風呂

次に検証するイメージは大手は福利厚生が整っている、というものです。

これは大手に限らず、中小でも十分福利厚生が整っている会社があると思います。

大手は人事部が(新卒に限らず)採用向けに見栄えの良い福利厚生を整えようとするので、結果として社員に好まれる福利厚生が充実することになります。

ただ、中小でも福利厚生は同様のものが提供できるはずです。

別に大手独特の福利厚生ノウハウなんてありません。

中小であれば、経営者の方の考え方次第で、福利厚生の充実は図れます。

大手はマニュアルやノルマで運営が硬直的、は本当か

大手はマニュアルやノルマで運営が硬直的、は果たして本当でしょうか。

私はこれも、ただのイメージが先行していると思います。

確かに一部の大手ではそういったネガティブな話も聞いたことがありますが、いわゆる噂話のよくあるところで、結局一つの会社の悪い側面が、大手全体がそうだとイメージされているだけだと思います。

事実、私はとある大手チェーン出身ですが、ノルマなんて聞いたことありません。

また、マニュアルは確かにありましたが、例えば棚卸手順のマニュアルなど、いい加減な薬剤師の手法を正す、といった側面が強かったです。

大手薬局の年収水準

貯金箱

年収水準に関しては、中小の方が(上にも下にも)ぶれやすいのは事実ですが、大手も中小も変わりません。

私は大手チェーン、自社経営、中小、M&Aとそれこそ1000を超える薬局の経営資料を見てきましたが、薬局の利益構造はどこも大差ないんです。

もちろん、個別に見たら、儲かってる薬局ですごく年収の高い薬剤師とかは確かにいます。

ただ、全体を俯瞰して見れば利益構造が大差ない大手も中小も年収に違いはない、という理解でOKです。 

唯一、違いが見えるとすると、年収というより福利厚生に含まれそうですが、退職金制度ではないでしょうか。

これは薬剤師の転職事情によるものだと思いますが、2つの薬局を年収で比較したときに、その退職金を求職者が織り込まないからだと思います。

大手は特に高額でなくとも一般的な退職金制度が用意されていますが、中小は特記していなければ、退職金の制度自体が無いと考えられます。

退職金は勤続年数によって大きく変動しますが、概ね年収のざっくり5%くらいは上乗せという理解でいいと思います。

薬剤師の年収に関しては「薬剤師の年収は低すぎる!各職種の特徴と年収1000万への道」もご参照ください。

あなたの年収は平均以下? 薬剤師キャリアステップ最適化

就活に迷ったら、大手薬局を選ぶ決め手

決め手

最後までこの記事を読んで頂きありがとうございました。

今回は就活や転職で概ね薬局に行くことは決まっているけど、大手と中小で迷っている方の助けになればと思って書きました。

もちろん、個々人の考え方、キャリアに求めるものも違うのでは一概にどちらが良いとは言えません

ただ、自分のビジネスキャリアを振り返ってみて、もう一度、社会人スタートとなるのであれば、私は間違いなく、大手に入ります

新卒は薬剤師一年生と同時に社会人一年生でもあるので、初めは社会人マナーなども含めて多くの仲間と、平凡かもしれませんが、一通りの研修は受けるべきだと思います。

私の知る限りでは薬剤師の勉強は中小でもできます。ただ、ビジネスマナーは身につきません。

大手に入り、社会人の基本ができた後は、キャリアを中小に求めるのも良いですが、最初は大手からが良いと思います。

皆さんのキャリアがやりがいや生きがいに満ちた充実したものとなるよう願っています。

なお、当社YAKUDACHIでは「そろそろ引退を・・・」とお考えの薬局経営者様、ご自身の後継者をお探しの薬局経営者様に事業承継を手数料無料にてご提案させていただいております。企業への売却はもちろん、当社には独立希望の薬剤師も多数登録ありますので、是非一度、ご相談ください。お知り合いにも是非、ご紹介ください。