薬局に現在勤務しているけど、開業して薬局を経営したい。
会社の従業員としてではなく、決裁権をもって薬剤師がしたい。
そうお考えではないでしょうか?
こんにちは。合同会社YAKUDACHI代表の鈴木重正です。
私は薬局をM&Aで取得して、独立開業しました。現在は薬局を3軒運営しながら、薬局M&Aの仲介事業を行っています。実際自分が独立開業する前は、もちろん不安ですし、誰かに相談に乗って欲しかったです。今回の記事では、初めて薬局を開業する薬剤師の方向けに開業までの様々な疑問にお答えします。
新規開業とM&Aの違いや経営者の報酬、銀行融資など、勤務薬剤師ではなかなか身に付かない知識や経験についてご紹介します。

そもそもですが、私の場合は周囲に独立開業経験のある薬剤師はいませんでしたので、 独りで考え、不安のなかで決断したのを覚えています。
経験者に聞いてしまえば、あっさり解決する疑問も、聞ける人がいないとそれだけで、独立開業を諦めてしまうかもしれません。
今回は薬局を開業希望の方が、よく疑問に思うことをピックアップし、私の経験の範囲で解説しました。
薬局開業に関する疑問は早い段階でクリアにしていただき、 実際の開業準備に気持ちをフォーカスしていってください。
Contents
薬局開業(M&A、新規)の現状
まずはじめに、全国の薬局の数について簡単に振り返りましょう。
| 2018年 | 2017年 | 増減 | |
| 全国の薬局数 | 59,613 | 59,138 | +475 |
およそ、頭打ちと言われている薬局ですが、微増しています。年間475軒の増加となっています。
ただし、これはドラッグストアの調剤併設も含んだ増加です。年間2000軒前後の調剤併設がなされていると推測されますので、調剤薬局単体では大幅減です。
ちなみに475軒中430軒はいわゆる太平洋ベルト上の人口過密地帯、関東、中部、関西、福岡です。
そのほかの都道府県では1年間で45軒しか増えていません。ドラッグストアはそんなエリアでも増えていますので、地方都市の調剤薬局の現状は推して知るべしです。
薬局開業の方法(新規開業とM&Aの比較)
次に薬局を開業する方法として新規開業とM&A(第三者以外の承継開業含む)を比較してみましょう。
| 新規開業 | M&A | |
| 開設資金 | 約2000万円 | 500万円~ |
| 運転資金 | 約1500万円 | 200万円前後 |
| 必要資金合計 | 約3,500万円 | 700万円~ |
| 人員 | 新規採用 | 基本的に引継ぎ |
| 経営の安定性 | △ | ◎ |
| 薬局の寿命 | ◎ | △ |
ただし、ここにはM&A仲介会社の手数料は含めていません。M&Aは仲介会社の利用が必須ではないからです。(私自身も自前でM&Aしてます)
なんとなく皆さんはM&Aと聞くと=M&A仲介会社の案件と思いがちかもしれませんが、例えばのれん分けだって立派な薬局M&Aです。
親から子供への親族内承継は、厳密にはM&Aではないですが上の図ではM&Aに含めています。
M&Aが新規開業に比べて優位な点が多いのは事実ですが、一点注意が必要なのは「薬局の寿命」つまり、継続性の部分です。多くのM&A案件では開設から年数が経過したものになります。当然、門前医院のDrの年齢も高齢化しており、継続性については必ず確認してください。
とは言え、公立病院の門前薬局のM&Aなどでは、ほぼ永続的と言えます。
必要資金はM&Aより新規開業の場合の方が多額

薬局開業に必要となる資金合計は、新規開業の方が多額になります。
開設資金は当然、新規開業の方が多額になります。
これはスケルトン状態の薬局不動産に内部造作を施す費用や、新品のレセコン、調剤機器、その他もろもろ全部新品だからです。
対してM&Aは基本的に全て資産を引き継ぐので、言ってみれば全部中古。当然、かかる費用は大きく違います。
ただし、すごく儲かっている薬局をM&Aする場合には営業権が設定されるため、その分、開設資金は多額になります。
もう一つ、運転資金も新規開業の方が多額になります。
新規開業は、そもそも薬局が黒字化するまでは、毎月資金が出ていく状態が続くので、もちろんケースバイケースですが1年前後はかかるでしょう。
それに対してM&Aの場合には1~2か月の引継ぎ期間だけ労務費が過大にかかることがあるだけで、基本的には開業当初から黒字運営となります。
以上、合計すると新規開業の方が開業に向け用意しなければならない資金総額は大きくなります。
多くの上場チェーン薬局はM&Aを(新規開業より)多用しています。
経営巧者たる上場企業がM&Aを選択する、その事実こそがM&Aの優位性を証明していると言えます。
ちなみに日本調剤さんは、あまりM&Aをしない上場企業です。圧倒的な開発力があるが故だと当時の私は考えていました。(その考えは浅かったと後に知ります)
ここからは、私の想像ですが、医療は都会にのみ存在するのではありません。
むしろ、人口減少の激しい地方の過疎地でこそ不足しがちなものです。そんな地方の医療を守るには薬局の効率化、大規模化は避けられません。
効率的に運営し、大規模だからこそ、通常では不採算で撤退しなければならないようなエリアに薬局を展開できるんだと思います。
多くの上場チェーンが、人口過密地帯にのみ薬局を集中させている中、日本調剤さんはしっかり地域医療に貢献しています。私の住む北海道、それも端っこの方の町立病院などにも日本調剤さんはあるんです。
経営手法がやや尖っているので、嫉妬も含めて批判されがちな同社ですが、私は根幹に医療をすえてしっかり経営されていると思います。
余談ですが、会社名を日本調剤としたことで、薬局名を日本調剤○○薬局とすることができているのもセンスあると思います。他社が安易に○○店と、小売業を自認するかのような薬局名としているのが、素人っぽく感じます。(薬局がJIS業種分類上小売業とされているのはもちろん理解の上です)
M&Aの場合、人員は引き継ぐ場合が多い

新規で薬局を開業する場合はもちろん、新規採用となりますが、M&Aの場合は、既存の従業員の方を引き継ぐことの方が多いです。
M&Aのスキームにもよりますが、株式譲渡の場合は自動的に従業員は引き継ぎます。(引き継ぐというよりそのまま会社に残ります。)事業譲渡の場合には、従業員側に前社に残るか譲渡先に移籍するかの選択肢があります。ただし、実務的には譲渡先に移籍してもらうのが(さも当然かのごとく)一般的です。
個人の方が買い手の場合には、あまり問題になりませんが(通常、自分が薬剤師として働く前提なので)、法人間のM&Aで事業譲渡を選択すると論点になることがあります。
M&Aは安定性に優れ、新規は薬局の寿命が長い

M&Aと新規開業の最も大きな違いは、シンプルに安定性と寿命です。
新規で開業する場合には、処方箋枚数や単価など、かなりアバウトに見込むだけですが、M&Aはそれまでの運営実績なので安定性抜群です。
ただし、M&Aの場合それまで運営してきた年月分、薬局としての寿命は短くなっているので、投資効率を考える場合には注意が必要です。
不動産投資で言うと、利回り9%の新築マンションと、利回り15%の中古アパートのようなものです。
単純に9%と15%なら15%が良いとはなりません。
シンプルに赤字薬局はと聞かれれば、圧倒的に新規開業です。
私は以前上場チェーン調剤に在籍していました。社内の情報戦略部門にもいたことがあるので、当時はM&Aと新規開業の数十軒の開業後損益データを全件比較してます。
詳細は秘密保持の関係上言えませんが、結論、M&Aが有利なのは確認済みです。
薬局開業Q&A
ここからは薬局開業に関するよくあるQ&Aにお答えします!
薬局開業(M&A、新規)すると年収はどれくらいアップするの ?

まずは、一番気になる薬局開業した場合の年収ですが、もちろん、ケースバイケースなので一概には言えません。
ただし、薬剤師が自分の薬局を開業する場合、以下の3点が収入となります。
開業しても薬剤師としての給与は維持

開業して薬剤師として勤務する場合に、現状維持の給与はそのまま自分の会社から貰います。諸々税金は考慮しなくてはなりませんが、概ね600~900万円あたりではないでしょうか。
社長としてのオーナー報酬
社長としてのオーナー報酬をどういった形で個人が受け取るかは別として、いわゆる勤務薬剤師としての給与分以外にオーナーとしての収入があります。
案件によりまちまちですが、一般的な小規模薬局のオーナー報酬は50~100万円です。もちろん、一つの薬局から毎月数百万円を稼いでいるオーナーもいますが、当然、M&A対価もその分上乗せされます。
法人代表者として経費が使える

会社員から経営者になって一番大きな違いは「経費」です。
もちろん、脱税はダメですが、何を会社の経費とするか、その決裁権を持つことは偉大です。
社宅、社用車、ガソリン代、車両保険、生命保険、書籍代、交際費・・・・。挙げればキリがありませんが、法人運営に必要であれば、全て経費です。
薬局開業M&Aには融資が下りるの?

開業資金は新規開業、M&Aどちらも融資受けることが可能です。
金融機関によって対応は異なりますが、しっかりとした収支計画とオーナーもしくは法人の信用により、多くの場合、融資は下りると思います。詳しくは以下の記事をご参照ください。
実際に独立した社長が明かす薬剤師のためのM&A資金借入の方法
どんな会社が薬局開業を支援してくれるの?

薬局開業を支援してくれる会社は主として2つあります。
一つはのれん分け制度のようなもののある薬局チェーンです。これは、ある程度の期間、その法人に勤務した従業員のために、会社が運営する薬局をのれん分けしてくれるものです。
もう一つはM&A仲介業者です。
M&A仲介業者から案件紹介を受けて薬局を開業します。ただし、多くの場合、多額の手数料がかかります。
薬局開業に失敗すると自己破産するの?

薬局開業を考えた場合に、多くの方がリスクとして思いつくのが自己破産ではないでしょうか。
確かにすべての薬局経営が上手く行くわけでもありませんし、偶発的な事故が起きないとも限りません。
一部の薬局は残念ながら赤字に転落し、閉局してしまったり、運営会社が倒産することもあります。
ただし、法人が倒産する=自己破産ではありません。
一部の金融機関では創業融資制度として、創業者個人の生活から新規創業のリスクを切り離すため、代表者への連帯保証が免除されています。
こういった制度を利用している限り、法人が例え行き詰ったとしても、法人が倒産するだけで、代表者個人は出資額を失うだけで済むのです。
薬局開業を成功させる個人の強みとは

私は現在、薬局を開業して1年が経とうとしていますが、個人が運営する薬局にはチェーンにはない強みがあると感じています。
個人は薬局開業後(M&A、新規)調剤報酬上、有利になる

ご存じの方も多いかと思いますが、個人もしくは中小企業が運営する薬局と、チェーンが運営する薬局は調剤基本料、地域支援体制加算算定要件が異なります。
よくあるパターンは大手チェーンで16点の基本料3-ロのみ算定だった薬局を個人が買い受けた場合で、基本料42点+翌年から地域支援体制加算38点の計80点に変わります。
処方箋一枚あたりの粗利が160円から800円に640円変わりますので、経営上インパクトは絶大です。
地元コミュニティーに属する

自分がその薬局の近隣に住み、地域住民として薬局運営をしていると、商店街の結束のようなものが生まれます。
例えば、日曜日に床屋さんに行き、何気ない世間話で仕事の話になります。すると床屋さんも薬局を利用してくれるようになるかもしれません。こういったことが、地域生活のあらゆる場面で生まれます。
大きな会社が運営しているチェーンと、地域住民が運営する薬局では、地元民からの愛着度合いが変わります。
個人オーナーは柔軟な対応ができる

個人オーナーだからこその柔軟な対応は、利用者満足度を向上させます。
例えば、2020年7月のレジ袋有料化ですが、大きな会社であれば一律バイオマスへの変更など、画一的なルール設定が必要になります。
ただ、個人で運営していれば、手で持って帰れる人は袋無し、赤ちゃんで大変そうなお母さんには紙袋、有料希望者には既存レジ袋販売、といったように柔軟に対応を変えることができます。
M&A、新規での薬局開業に関する疑問にお答え出来てましたか?

最後まで読んで頂きありがとうございました。
薬局の開業バブルは終わった。
確かに新しく薬局を作るには厳しい世の中だとは思いますが、逆に言えば、バブル時代に作られた薬局がまだまだ現存しているわけです。
私はイチ経営者として競争するなら、今この厳しい時代に新規開業してくるような、勢いのある経営者は嫌です。
皆さんは、どう思われますか?