薬局M&A案件の比較検討

薬剤師独立




こんにちは。

薬剤師独立M&Aコンサルタントの鈴木重正です。

前回までに自分自身がM&Aを利用して薬局経営者になる→その経験を生かしてM&Aを利用した薬剤師の独立支援コンサルをする、と決めていた私は自分がM&Aする薬局を探し始めました。

この記事に含まれるM&Aに関する数字、場所などは秘密情報に該当するため、実際のものとは異なります。以後、特に断らなくても秘密情報に関しては特定できないよう加工して記載しています。

M&A候補は3つ

今回、独立するにあたってM&A候補となった薬局は3件ありました。複数の譲渡候補から一つに絞る際の判断基準は以下の通りです。

・投資と回収のバランス

・キャッシュフロー、資金繰り

・総投資額と融資可能性

・その他、検討除外ラインの設定など

投資回収のバランス

薬局に限らず、多くのM&Aで買い手が最も気にするのは投資回収だと思います。ただ、薬局の場合には門前医療機関が総合病院か、クリニックかといった医療機関の形態や、Dr年齢、細かくは調剤報酬改定動向なども加味して投資回収を考えるのでやや複雑になります。

クリニック門前の場合には処方医の年齢によっては回収年数が短くないと、いくらPLが黒字運営でも投資回収が実現しません。逆に言えば、敷地内薬局のM&Aのような場合には、たとえROIが小さくても大型総合病院の処方は半永久的と考えられるので、投資回収が実現します。ただし、独立希望の薬剤師の方は大きな投資でじっくり回収するM&A案件よりも、小さな投資で短期間で回収するM&A案件を選ぶべきです。

キャッシュフロー、資金繰り

個人で独立して薬局を運営する場合、実はPL以上に重要になるのがCFです。

私の場合は大手調剤チェーンのサラリーマンだったため、特にこの点は独立前に入念にチェックしました。これは大手チェーンのような大企業に所属していると資金繰りに対する意識が希薄になると考えたためです。(つまり自分で自分の資金繰りに対する感覚を疑う)

想定される支払いと収入のタイミング、現預金残高の推移を(簡便にですが)作成し、それをスケジュールにしました。エクセルなんかでグラフ化できるフォーマットがネットにあるので、私はそれを利用しました。

大きくは融資の実行、M&A代金決済、家賃など前払い費用発生、従業員給与発生、初回の調剤報酬振込、仕入れ代金決済までが初期の大切な資金繰りなので、大まかにでも作成しておく必要があります。YAKUDACHIではM&A代金決済から仕入れ決済や保険売上入金、従業員の給与支払い、各種経費支払いと監督官庁向け各種申請等を一覧できるスケジュール表を作成して独立薬剤師のM&Aをサポートしています。やるべき事をはっきりさせ、着実に独立開業までお手伝いします。

ファイナンス

これも大企業にいると感覚がズレがちですが、独立すると気づきます。

サラリーマンの信用力の99%は所属する会社のものです。

なので、独立して経営者1年生となった私の場合にはそもそも融資限度額や融資可能性が投資の実現に大きく影響します。

いくら優良M&A案件を見つけたとしても、先立つものがなければ話になりません。

多くの金融機関に問い合わせるべきですが、設立したばかりの法人で融資を受ける場合、1500万円、2500万円、5000万円あたりに大きな壁があるように感じました。無担保、無保証人かつ自己資本ゼロのフルローンで事業融資が受けられるのは、新設法人では1500万までではないでしょうか(あくまで著者個人が金融機関と折衝して得た感想です)。逆に言うと1500万までのM&A案件であれば薬剤師の場合、ほとんどリスクゼロで起業できるということです。YAKUDACHIでは、薬剤師独立支援の際に金融機関との折衝もサポートしてますので安心してご依頼ください。

買ってはいけないM&A案件とは

最後に、手を出してはいけないM&A案件の典型をご紹介します。多くの独立希望の薬剤師の方は、高い志を持っているので薬局運営に関してはプロフェッショナルと思いますが、M&Aに関しては初心者がほとんどではないでしょうか。新築のマイホームもそうですが、初心者には群がる業者がいるのが世の常。そこで、悪質な業者に騙されないように買ってはいけないM&A案件の特徴をご紹介します。

  • メールで不特定多数に拡散されている
  • 譲渡代金の内訳が不明瞭
  • 売上3,000万以下、技術料125万以下、処方箋枚数400枚以下は無視

メールで不特定多数に拡散されている

多くのM&A仲介業者は売り案件が出てきた場合に、真っ先に大手チェーンのM&A担当部署に持ち込みます(彼らにとっての最優良顧客だからです)。そこで売れ残ったものを地場の中小チェーンに声がけし、それでも売れない案件のみメーリングリストに流します。あなたが受け取っている「M&A〇〇情報」のようなメールには売れ残りだけ記載されているのが実情です。ただし、その中にも大手が買いづらいだけで収益がとれるものもあるので、全てが外れ案件ではありませんが、少なくとも多くのはずれを含んだリストであるという前提は忘れずに見るべきです。

譲渡代金の内訳が不明瞭

これもよくあるパターンですが、以下のような記載が多いです。

売上 3600万

技術料 150万/月

譲渡代金 1500万 在庫、固定資産、仲介手数料含む

月商300万で技術料150万であれば、小児科などの薬剤料が極めて小さな診療科かと思います。単科門前で出る薬が決まっている場合、在庫はせいぜい1.5ケ月でしょう。つまり150×1.5=225万。クリニック門前の売却案件なので開業したばかりというのはほぼ考えられないので、開業後少なくとも15年経過していると考えられます。その場合、薬局も当然開局15年以上なので固定資産のほとんどは減価償却済み(つまりゼロ)。途中で導入した機器があるかもしれませんが、不採算薬局に高額投資は考えづらいです。せいぜい2~300万でしょう。つまり医薬品在庫と固定資産の合計はどんなに多く見積もっても500万以下です。と、いうことはM&A仲介業者が手数料として1000万抜く気だということです。正直、M&A業界で手数料1000万は小粒ですが、個人で負担するとなると極めて高額だと思います。優良案件ならまだしも払う価値はないでしょう。

売上3,000万以下、技術料125万以下、処方箋枚数400枚以下は無視

これは実は目安にしかなりませんが、恐らく独立希望の薬剤師の方は多くのM&A案件を検討すると思われるので、時間効率を考えた場合にはイチイチ見てられない最低ライン以下の案件です。世の中には58,000軒の薬局があるので、自分が買うかもしれない案件だけ検討すればよいです。人間は買おうかどうか迷っていると、時には買うべき理由(Drが若いとか、駅前だとか、想定年収〇〇万など)を探し始めることがあります。サラリーマンならば投資意思決定の失敗は株主の損失ではありますが、自分の財布は傷みません。ただし、経営者になるのであれば投資意思決定の失敗はダイレクトに自身の人生に影響しますので、客観的な最低ラインは設定すべきだと思います。

そうは言ってもフィーリングも大事

さんざん経営の話を書き連ねてきて恐縮ですが、独立希望の薬剤師にとってM&A案件はお金だけでは割り切れないはずです。もちろん、経営が成り立たないと話にならないのは重々承知ですが、自分が薬剤師として経験を積んできて、一つの集大成として自身の薬局を開局する。人生がお金が全てじゃないのと同様に独立M&Aもどんな薬局であるかは大事です。自分の薬剤師としての価値観を大切にして、少なくとも今後の10年以上をその薬局でオーナー薬剤師として過ごす、そんな薬局を選んでください。