M&Aを利用して薬局を買ってみたい。 自分の薬局も落ち着いてきたのでそろそろ2店舗目を考えたい。 そう考えている薬局経営者様はいらっしゃいませんか?
はじめまして。合同会社YAKUDACHI代表の鈴木重正と申します。
私は以前、大手調剤チェーンのM&A担当者でした。
現在は独立して薬局を経営しながらM&Aのコンサルタントをしています。
近年、薬局経営者の中ではM&Aに対する関心が高まってきています。
「薬局売りませんか?」と言われ続けているせいか、身近になってきたせいもありますし、ひょっとしたら、お知り合いの方がM&Aを利用してご勇退されたのかもしれません。
ただし、M&Aは売却手段であるだけでなく、買収手段でもあるのです。
今回は薬局の買い手となり、自社の事業拡大の手段としてM&Aを積極的に利用していただくために、薬局M&Aの基本、M&Aの方法を簡単解説します。
M&A仲介業者の選び方についても記載しましたので、是非ご参考になさってください。
薬局M&Aの基本
初めに薬局M&Aの基本のおさらいです。詳しい方は飛ばして先に進んでください。
薬局M&Aとは
M&AはMerger(合併) & Acquisition(買収)の略です。2つ以上の会社を1つに合併したり、他社の事業もしくは会社自体を買収して自社の傘下に置くことです。
どちらかと言えば支配的なイメージが強いM&Aですが、後継者問題の解決や中小企業の事業拡大の手段として浸透してきています。
薬局の場合であれば、資本価値の変動リスクをオーナー個人の経済から切り離すという意味でも活用が進んでいます。
資本価値の変動リスクをオーナー個人の経済(お財布)から切り離す
薬局オーナーは個人の経済が法人の資本価値の変動に大きく影響されます。
例えば、営業利益と役員報酬で合計3000万の収入があるとします。恐らく、現時点での株価は2億前後でしょう。ところが、調剤報酬や薬価改定を経て、営業利益がマイナス、役員報酬と差し引き300万まで落ち込んだ場合、もうオーナー個人の生活が成り立ちません。ところが、その時点で売却しようとしても、株価はつかないでしょう。
以前であれば、そこまで利益が急減することも考えられなかったですが、昨今の薬局業界を取り巻く環境を考えると、現実的なシナリオにもなりかねません。つまり、これがオーナー個人の経済に会社の資本価値の変動がリスクと言える理由です。
資本価値は、実際のオーナーの収入の何倍ものスピードで変化するため、収入が減って、いざ売ろうとしたときには、減った収入以上に株価は急減していて、売るに売れない、といった状況に陥ります。
なお、YAKUDACHIでは現在の企業価値の算定を無料にて承っております。お気軽にお問い合わせください。
薬局M&Aの現状
新型コロナウィルスの影響で世界的に経済が冷え込む中、世界全体でみればM&Aは急減しています。ただし、国内の薬局M&Aに関しては依然として活況を呈しています。ごく最近の事例だけでも下記のとおりです。
- クオールホールディングス株式会社 2020年08月03日 M&Aによる事業拡大のお知らせ
- 株式会社ココカラファイン 2020年08月03日 調剤薬局事業の譲受に関するお知らせ
- 寛一商店株式会社 2020年7月20日 新潟医薬株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ
コロナ下でも積極的にM&Aを利用した事業拡大をする企業がある一方、一部大手チェーンでは慎重な姿勢も見えてきました。
株式譲渡と事業譲渡
基本的には薬局M&Aは株式譲渡と事業譲渡に大別されます。まずは基本的な違いを理解しましょう。
株式譲渡 | 事業譲渡 | |
売り手 | 株主個人 | 法人 |
売却対象 | 株式 | 事業資産(+営業権) |
債権債務 | 引き継ぐ | 基本的に引き継がない |
売り手にかかる税率 | 約20% | 約35% |
買い手側の損金算入 | ✖ | 営業権は損金算入 |
譲渡対価(株価) | 〇 | ◎(営業権の節税効果分が+) |
譲渡元法人 | 買い手に移転 | 法人自体は売り手に残る |
許認可 | 引継ぎ | ほぼ全て再申請必要 |
上記のように株式譲渡と事業譲渡では多くの項目で違いがあります。薬局の場合、実務上は1~3薬局の譲渡は事業譲渡もしくは株式譲渡、それ以上の規模は株式譲渡となります。現実的には4薬局以上の場合、薬局開設許可や保険薬局の指定を取り直すことが困難なので、事業譲渡は選択されません。
なお、株式譲渡の場合には事業と直接関係ない資産を新設法人に移管する通称ヨコの会社分割を図って節税するスキームがあります。
薬局の価格の算定方法
M&Aの価格算定方法は学術的には様々な手法があります。ただし、薬局のM&Aで採用される譲渡対価の算定方法は主としてネットキャッシュ+営業権の算定です。少しざっくりしてますが、この理解で概ねよいと思います。
つまり、会社にある資産、負債を事業との関連性で切り分け、事業性の低い資産負債の時価を算定、そこに営業権を足しこむ手法です。営業権は概ね以下の計算式で求めることができます。
営業権=譲渡後の営業CF×5~7
もしくは
営業権=(譲渡前の営業利益+減価償却費+オーナー報酬)×5~7×合併シナジー
なお、当社YAKUDACHIでは詳細な営業権の算定を無料で実施しております。お気軽にお問い合わせフォームよりご依頼ください。
薬局M&Aの方法
M&Aを利用した事業拡大の方法以下の通りです。
- 自社で独自に買収先にアプローチする
- 売り手からのアプローチを直接受ける
- M&A仲介業者を利用する
自社で独自に買収先にアプローチする
自社で独自に買収先にアプローチする手法は、社内でM&A担当部署がある場合には有効です。買収対象の抽出からM&A手続き一切の負担はありますが、高額な仲介手数料を回避できるメリットがあります。
ただし、企業イメージの悪化が懸念されるため、大企業は採用しづらい手法と言えます。
売り手からのアプローチを直接受ける
売り手からのアプローチを直接受ける手法も、同様に社内でM&A担当部署がある場合には有効です。自社ウェブサイトなどでM&A売り手募集をしておき、売り手からの直接アプローチを求めます。
M&A仲介業者を利用する
M&Aで事業拡大を図る場合のメインとなる手法は仲介業者の利用です。当然、M&Aに精通しているので安心して任せることができますし、案件情報も豊富に保持しています。ただし、一部仲介業者は極めて高額な手数料を請求しますので業者選びは慎重にする必要があります。
「〇〇無料」と謳っている業者でも案件成立時の成功報酬は数千万円に上ることもあり、しっかり吟味しましょう。
薬局M&Aって安全なの?
M&Aは一概に安全とは言えません。小規模案件でも数千万円、大型案件では数十億円にも上る取引ですので、万全の準備をもって取り組むべきです。
ただ、薬局経営は一般的なその他のビジネスに比べると遥かに安定していますし、M&Aであれば立ち上がっているビジネスを途中から引き継ぐので、新規で開局するよりも確度は高いです。
薬局M&Aがいかにリスクが低いかは以下の記事をご参照ください。
去年独立した薬剤師が教える、独立の実情はノーリスクハイリターン(笑)
買ってはいけないM&A案件とは
最後に、手を出してはいけないM&A案件の典型をご紹介します。
多くの薬局経営者の方は、薬局運営に関してはプロフェッショナルと思いますが、M&Aに関しては初心者がほとんどではないでしょうか。
新築のマイホームもそうですが、初心者には群がる業者がいるのは世の常。そこで、悪質な業者に騙されないように買ってはいけないM&A案件の特徴をご紹介します。
- メールで不特定多数に拡散されている
- 譲渡代金の内訳が不明瞭
- 売上3,000万以下、技術料125万以下、処方箋枚数400枚以下は無視
メールで不特定多数に拡散されている薬局はM&Aしない
多くのM&A仲介業者は売り案件が出てきた場合に、真っ先に大手チェーンのM&A担当部署に持ち込みます(彼らにとっての最優良顧客だからです)。
そこで売れ残ったものを地場の中小チェーンに声がけし、それでも売れない案件のみメーリングリストに流します。あなたが受け取っている「M&A〇〇情報」のようなメールには売れ残りだけ記載されているのが実情です。
ただし、その中にも大手が買いづらいだけで収益がとれるものもあるので、全てが外れ案件ではありませんが、少なくとも多くのはずれを含んだリストであるという前提は忘れずに見るべきです。
譲渡代金の内訳が不明瞭
これもよくあるパターンですが、以下のような記載が多いです。
売上 3600万
技術料 150万/月
譲渡代金 1500万 在庫、固定資産、仲介手数料含む
月商300万で技術料150万であれば、小児科などの薬剤料が極めて小さな診療科かと思います。
単科門前で出る薬が決まっている場合、在庫はせいぜい1.5ケ月でしょう。
つまり150×1.5=225万。クリニック門前の売却案件なので開業したばかりというのはほぼ考えられないので、開業後少なくとも15年経過していると考えられます。
その場合、薬局も当然開局15年以上なので固定資産のほとんどは減価償却済み(つまりゼロ)。
途中で導入した機器があるかもしれませんが、不採算薬局に高額投資は考えづらいです。
せいぜい2~300万でしょう。つまり医薬品在庫と固定資産の合計はどんなに多く見積もっても500万以下です。
と、いうことはM&A仲介業者が手数料として1000万抜く気だということです。
正直、M&A業界で手数料1000万は小粒ですが、個人で負担するとなると極めて高額だと思います。優良案件ならまだしも払う価値はないでしょう。
売上3,000万以下、技術料125万以下、処方箋枚数400枚以下は無視
これは実は目安にしかなりませんが、恐らくM&A希望の薬剤師の方は多くのM&A案件を検討すると思われるので、時間効率を考えた場合にはイチイチ見てられない最低ライン以下の案件です。世の中には58,000軒の薬局があるので、自分が買うかもしれない案件だけ検討すればよいです。
人間は買おうかどうか迷っていると、時には買うべき理由(Drが若いとか、駅前だとか、想定年収〇〇万など)を探し始めることがあります。
サラリーマンならば投資意思決定の失敗は株主の損失ではありますが、自分の財布は傷みません。
ただし、経営者であれば投資意思決定の失敗はダイレクトに自身の人生に影響しますので、客観的な最低ラインは設定すべきだと思います。
薬局M&Aの際の仲介業者の選び方
では、M&Aの仲介業者はどういった基準で選べばよいのでしょうか。基準はいくつかあると思います。私の経験上では以下のような基準で選ぶべきです。
- 会社名より担当者
- 売り手と買い手の手数料の合計額
- 紹介者がいない事
薬局M&A仲介業者は会社名ではなく、担当者で選ぶ
M&A仲介業者は玉石混交さまざまな業者があります。
それこそ大企業から個人のコンサルタントまで規模は様々です。
ただ、注意してほしいのは会社名で選ぶのではなく、担当者で選ぶこと。
大企業にはそれこそ、スーパースターのようなコンサルタントがいます。確かにいますが、当然、担当するのは超上得意のお客様、通常は上場チェーンです。
あなたが中小企業の経営者であれば、推して知るべしです。どこぞの業界から給料の高さにひかれて転職してきたお兄ちゃんに担当して欲しければどうぞ。
むしろ規模の小さいM&A仲介業者では、もともと腕に自信のあった元大企業スーパースターが独立して仲介業を営んでいることも多く、おススメです。
薬局M&A仲介業者は売り手と買い手の手数料の合計額で選ぶ
薬局M&Aでは、多くの売り手は売り手側手数料、買い手は買い手側手数料しか興味がありません。
実はこれ、理にかなってないんです。
詳しくは弊社ウェブサイト「M&Aノウハウ」のパートにも書きましたが、売り手の受け取る金額と買い手が支払う金額は以下の計算式のようになっているからです。
売り手の受取金額=買い手の支払い金額(つまり会社評価額)ー(買い手手数料+売り手手数料)
並び変えると
買い手の支払い金額=売り手の受取金額+(買い手手数料+売り手手数料)=会社評価額
です。
売り手にとっても買い手にとっても手数料は合計額で見なくてはならないことがお分かりいただけたでしょうか?
売り手の立場から見ると、自分の会社の評価額から買い手と売り手の手数料合計が引かれて手取りになっています。(言い換えれば手数料の合計額を売り手は負担している!)
薬局M&A仲介業者は紹介者がいないところを選ぶ
仲介業者を選ぶ際に、知り合いから紹介された場合には注意が必要です。あなたが支払う仲介手数料の一部が知り合いのポケットに入ることになっているかも知れません。
金融機関の担当者や顧問税理士からM&Aを勧められた時には、なんで勧めるのか立ち止まって考えてみましょう。
薬局のM&Aについて理解は進みましたか?
一昔前まで、M&Aとかハゲタカファンド、乗っ取り、全て同じくくりで語られて、なんだか怖いイメージでした。
ただ、昨今は薬局M&Aに関しては、だいぶオープンに語られるようになったおかげか、少しずつ市民権を得てきたように思います。
本文中でも書きましたが、薬局M&Aは後継者問題の解決策として有効であるだけでなく、中小企業にとっては事業拡大のチャンスです。
是非、イメージに囚われず、事業戦略の一つとし利用してみませんか?
なお、当社YAKUDACHIでは「そろそろ引退を・・・」とお考えの薬局経営者様、ご自身の後継者をお探しの薬局経営者様に、事業承継をご提案させていただいております。企業への売却はもちろん、当社には独立希望の薬剤師も多数登録ありますので、是非一度、ご相談ください。お知り合いにも是非、ご紹介ください。