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はじめに

薬局売却において最もデリケートなテーマのひとつが「従業員の雇用契約の引継ぎ」です。
薬剤師や事務スタッフは薬局経営の基盤であり、買い手にとっても「人材の安定性」は売却価格や条件を決定づける重要要素です。
従業員対応を誤ると、退職者の増加やモチベーション低下を招き、売却後の経営に大きな悪影響を及ぼします。
本記事では、薬局売却における雇用契約引継ぎの注意点と実務的な対策を解説します。
皆さん、こんにちは。YAKUDACHI鈴木です。
今回は薬局M&Aにまつわる従業員との雇用契約をテーマにお届けします。
薬局経営と人間関係は切っても切れない関係ですよね。
特に薬剤師さんの雇用問題や待遇、事務さんとの関係などなど、経営者の皆さんの
悩みの一つではないでしょうか。
特にM&A前後では、契約締結を優先せざるを得ず、従業員の方の優先順位は下がりがちで
不満がたまりやすいタイミングでもあります。
対応を誤ると、譲渡後の事業運営に支障をきたすケースもありますので、しっかり対策しましょう。
薬局売却と雇用契約引継ぎの基本

1. 会社分割・事業譲渡・株式譲渡での違い
- 株式譲渡:雇用契約は会社に残るため、基本的に従業員の雇用条件は維持される
- 事業譲渡:譲渡対象に含める従業員を選定する必要があり、個別同意が必須
- 会社分割:包括承継となるため、従業員の同意不要で雇用契約も引き継がれる
👉 どのスキームを選ぶかで従業員対応が大きく異なるため、法務・労務の観点で慎重に判断する必要があります。
薬局M&Aにおける従業員との雇用契約は、譲渡スキームによって取り扱いが変わります。
株式譲渡では、法人まるごとの譲渡になるためM&A前後で雇用契約は変更ありません。なんら手続きなく自動的に従業員は譲渡先に引き継がれます。
一方、事業譲渡の場合、従業員は譲渡前の法人に残るので、自動的に譲渡先に引き継がれることはありません。よって、売り手と買い手は従業員の扱いにつき(通常は最終契約で)事前に取り決める必要があります。
実際に多くの薬局M&Aでは、事業譲渡であっても従業員に譲渡先法人へ移籍してもらう手続きが取られます。
ただし、あくまで旧法人から新法人への移籍は従業員個人の意思が尊重されるため、その伝え方には配慮が必要です。
無用な争いを避けるためにも、誠実な説明を心掛けましょう。
もし、薬局M&Aに関して従業員の方との雇用継続にお悩みでしたらお気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちらより。
2. 労働契約承継法の適用
- 会社分割の場合、労働契約承継法に基づき、従業員の雇用契約は自動的に引き継がれる
- 労働条件の不利益変更は原則として認められない
この労働契約承継法の規定は、あくまで会社分割をスキームとして選択した場合にのみ適用されます。多くのM&Aでは同スキームを選択しないので無関係と言えますね。
薬局売却時 従業員対応で起こりやすいトラブル

- 退職者の発生
売却の噂が広まり、不安を感じた薬剤師が退職してしまうケース - 雇用条件の不利益変更
買い手側の就業規則に統一する過程で、給与や待遇が下がるとトラブルに - 情報伝達の遅れ
売却成立後に初めて従業員に知らされ、不信感を招く - 労働組合・労基署対応
労務問題が事前に整理されていない場合、外部トラブルに発展する
ここまで、株式譲渡と事業譲渡を分けて記述してますが、上記①~④はどちらの譲渡スキームでも注意が必要な事象です。
薬局の運営企業は、M&Aの際にあまり過激な手法をとる企業が多くない印象ですので、②の不利益変更が問題になるケースは少ないです。ただし、現代のM&Aでは薬局の買い手が、薬局運営企業とは限りません。異業種が買い手となった場合には通用しない考えかも知れませんね。
実務上、一番問題になりやすいのは①の退職者でしょう。特に管理薬剤師の退職は、事業運営に大きな影響があります。必要に応じ、売り手買い手の合意のもと、キーパーソンにはM&Aを事前に通知することもあります。
薬局売却前に準備すべき労務チェックリスト

- 就業規則や雇用契約書が整備されているか
- 未払い残業代や労務トラブルがないか
- 社会保険・労働保険の手続きに漏れがないか
- 労働時間・有給管理が適正に行われているか
- 離職率や従業員満足度を把握しているか
一般的に薬局M&Aでは、売り手が中小企業、買い手が大手のケースが多いです。
一部の中小企業では、就業規則や雇用契約書がないこともあります。
また、残業の一律カットや有休を取得させていないなど、労働法規上、問題とされる運営も見受けられます。
特に買い手は労務関連の状況をしっかり把握する必要があります。場合によっては、譲渡対価へ反映が必要なケースもあります。
薬局売却 従業員への説明タイミングと方法

1. 説明タイミング
- キーパーソンへは事前通知。その他従業員へはクロージング直前もしくは当日がよい。
- あまりに早い段階で説明すると不安を煽り、退職者が出るリスクあり
従業員への開示で、もっとも大切なことは、あいまいな情報をださないこと。
「来月くらいに、売るかもしれない」とかは最低です。
従業員からすれば、どこの誰が経営者になるか見えず、自分たちの処遇が維持されるかどうかどころか、雇用が維持されるかも不明です。
あなたが初めてのM&Aであるのと同様に、ほぼ全ての従業員も初めてのM&Aです。
特に、従業員の方の心情を鑑みれば、「売られた」という意識はどうしても強いので
誠実な対応が求められます。
5W1Hをしっかり確定させて、納得感のある説明が必要です。
2. 説明方法
- 経営者から直接説明することが基本
- 「患者対応」「地域連携」「待遇維持」の方針を明確に伝える
- 買い手企業の担当者も同席し、信頼を高める
成功事例と失敗事例

成功事例
関東のA薬局は、売却前に就業規則や雇用契約を整備し、労務トラブルをゼロに。
売却説明会を経営者と買い手が共同開催し、「待遇は維持される」と明言した結果、従業員の退職者ゼロでスムーズに承継が実現。
失敗事例
関西のB薬局は、売却検討段階に従業員へ告知。
「待遇が下がるのでは」という不安から薬剤師2名が退職し、結果的に売却後の運営が混乱。買い手からも信頼を失った。
買い手企業が重視する従業員関連の要素

- 管理薬剤師の継続勤務意思
- 常勤薬剤師の安定性と離職率
- 従業員の年齢構成・キャリアプラン
- 教育研修体制の有無
👉 「人材の安定度」は売却価格に直結します。
多くの薬局M&A案件では、管理薬剤師の継続可否はIM(案件概要書)の記載事項でもあります。IM提示時点では管理薬剤師にM&Aを告知していないケースが多いですが、譲渡時の見込みを記載しておくことで、買い手も準備することができます。(もしくは検討のテーブルから外す)
従業員ケアの実務ポイント

- 早めの準備
→ 売却を検討し始めた時点で労務問題を洗い出す - 待遇維持の方針確認
→ 買い手企業と合意し、従業員に安心感を与える - 従業員説明会の実施
→ 売却直後に開催し、疑問を解消する場を設ける - キーパーソンとの個別面談
→ 管理薬剤師やベテラン薬剤師には個別フォローを行う
数十軒クラスの大規模な薬局M&Aの場合には、PMIの一環として買い手の実務担当者が全薬局を訪問し、運営方針や待遇の説明や疑問点の解消に努めます。
買い手の運営マニュアルを配布しても、些細な疑問が解消されないまま放置されたりします。
実地に訪問して、疑問や不満をヒアリングすると、容易に解決できることも多いです。
PMIの要諦は現場主義です。
まとめ
薬局売却における従業員・雇用契約の引継ぎは、価格交渉と同じくらい重要なテーマです。
- 株式譲渡・事業譲渡・会社分割で従業員対応が異なる
- 労働契約承継法に基づき、不利益変更は認められない(会社分割)
- 雇用条件の維持と誠実な情報共有がトラブル防止につながる
- 従業員対応を丁寧に行うことで、買い手からの評価も上がる
いかがでしたでしょうか。
今回は薬局M&Aの重要なテーマの一つ、従業員との雇用契約を取り上げました。
こちらが誠実な対応をすれば、従業員も誠実に。こちらが悪だくみをすれば、相手も同様に。
信頼できる関係構築に努めましょう。
次回は「薬局売却と不動産・立地条件|高値売却を実現するためのチェックポイント」をお届けします。従業員対応と同様、不動産も薬局M&Aの主要テーマです。特に賃貸借契約の種類やCoC条項など、譲渡可否に影響するものもあるので、慎重に対応しましょう。