本当にあなたはこのまま転職してもいいんですか?
薬剤師転職情報は巷に溢れかえっています。ただ、あなたは本当に転職がしたいんでしょうか。 それとも転職サイトや周囲の人達に流されているだけでしょうか。
こんにちは。合同会社YAKUDACHI代表薬剤師 社長の鈴木重正です。現在は薬局を経営しながらM&Aを利用した薬剤師の独立支援をしていますが、過去には薬剤師として転職を繰り返してきました。また、大手チェーン薬局グループでは役員として1000人以上の方の選考に携わってきました。
当時は毎日毎日、面接の連続でしたが、たまに気づくことがあったんです。
「この人、本当に転職したいのかな?」とか「薬剤師として転職すべきは今じゃないよな」と。
なんで自分は今、この会社に転職すべきなのか。明確になってないままに面接に来る方が、驚くほど多いです。
仕事をしていれば、特に社会人になってから5年以内の薬剤師にとっては、日々、つらいと思うこともあるでしょう。 そんな時に目に付いた転職情報に従って、なんだか読んでいるうちに転職したほうが良い気になってきませんか?
それは危ない兆候です。転職サイトに登録したとたんに、あれよあれよと、気づかぬうちに面接してるなんてことに・・・
転職サイトには転職のメリットや次の職場のよいところ(例えば少し高いお給料とか)ばかりが書いてあります。ただ、転職しないメリットもきっと多くあるはず。後から「やっぱり転職しなきゃよかった・・・」と後悔することになるかもしれません。
そうならないためには、事前準備が必要です。 今回は転職に迷った薬剤師が(事前に!)決めておくことを3つご紹介します。
「隣の芝生は青く見える」 皆さんはことわざの意味をもちろんご存じだと思いますが、実際に自分が「青く見えている」という自覚はありますか?
転職を考えているときはとにかく、転職先が良く見えるんです。残業が少なくて給料が高いとか、夜勤が無くて定時で帰れるとか。
でも、その転職先が現在、求人募集しているのは退職した人がいるからです。
あなたが入社しようとしているまさにその会社を退社した人がいる。退社理由はわかりませんが、少なくとも思い出してください、隣の芝生は青く見えると。
一度転職活動が始まってしまえば、あなたが転職しようかどうか迷ったところで味方はいません。転職活動を始める前にしっかり事前準備しましょう。
そうは言っても、あなたが薬剤師として有意義なキャリアを形成していくために、有意義なライフスタイルを実現するために、転職は大変有用です。是非、しっかり事前準備して、必要な時に納得のいく転職先を見つけてください。
最後まで読んで頂き、あなたがいつ転職すべきなのか(転職しないべきなのか)、どこに転職すべきなのか、自分自身で決めることができるようになり、薬剤師としての素晴らしいキャリア築けるよう心から願っています。
Contents
薬剤師は転職を繰り返してキャリアアップすべきか
薬剤師は転職を繰り返してキャリアアップすべきでしょうか。
これはキャリアの捉え方によって答えは異なりますが、少なくとも多様な経験が有用であることは間違いないでしょう。
ただし、やみくもに転職を繰り返すことが良いわけではありません。
何回までなら薬剤師は転職をしてよいか
それでは何回までなら薬剤師は転職してもよいのでしょうか。
以前、私は大手チェーンで人事採用に携わっていました。その際に、合計1000人以上の応募者(つまり履歴書1000枚)を選考しましたが、その際に最も注目したのは職歴(と顔写真の表情や目つき)です。
薬剤師資格を持っている場合には、書類選考で落とされるということは、あまりありませんが、キャリア形成という意味では職歴は極めて大きな意味を持ちます。
なぜなら、採用担当者の多くは人事担当者だからです。つまり、入社後のあなたのキャリアは採用時点で多くが決まるのです。
採用担当者に「職歴が汚い人」と印象付けてしまうと、たとえ採用されたとしても良いポジションにつくことはできなくなってしまいます。
個人差はもちろんありますが、転職は3回まで。それを超えると目立つことは間違いないです。
転職理由は人それぞれかとは思いますが、あなたの口から語られる転職理由を選考担当者は鵜呑みにはしません。当然、都合の悪いことは言ってないんだろうという予想のもとに聞いています。
薬剤師が転職によりスキルアップする理由
薬剤師は正しい転職によりスキルが上がります。これにはいくつか理由があります。
薬剤師は転職により知識量が増える
単純に整形外科門前薬局→耳鼻科門前薬局と転職しても求められる知識が異なるので知識量は増えますし、ドラッグストアから病院に転職した場合などは、ガラリと必要な知識(や技能、態度)は変わります。大変ですが、その職場に必要な知識を習得しようと必死に努力するので成長しやすいです。
一つの職場では限られた知識しか得られません。特に薬局薬剤師は転職により知識のブラッシュアップができます。
薬剤師は転職でコミュニケーション能力に幅が生まれる
これは薬局→ドラッグストア→病院などのように職種をまたいで転職された方に見られるスキルアップです。薬局の場合には患者さんとカウンター越しに話し、ドラッグストアの場合にはお客さんと対面で、病院の場合には入院患者とベットサイドで話すため、コミュニケーション能力に幅が生まれます。
薬局、ドラッグストア、病院はそれぞれ患者さんやお客さんが薬剤師に求めている事や薬剤師への接し方が異なるため、薬剤師の側もそれに対応していく(順応していく)必要があります。これがコミュニケーション能力を向上させます。
薬剤師は転職により態度が改まる
自戒を込めて記しますが、同じ職場にずっといると良くも悪くも慣れてしまいます。それ程、努力しなくとも怒られない程度には仕事できてしまうので、入社当時の意欲とか成長といったものから離れてしまいがちです。
ただし、転職すると新入りとなるので、自分から挨拶に行ったり、教えてもらわなければなりません。態度が改まり、再び成長サイクルに入ることができます。
ひょっとしたらこれが最も大きな転職の効用かも知れません。同じ職場にずっといると、どんなに優秀な人でもどこか慣れてきてしまい、手を抜いたり、新たな知識を身につける努力がおろそかになります。
安定は成長の足かせになるのかも知れません。
薬剤師が転職に迷ったら決めなきゃいけないこと3つ
薬剤師にとって転職がキャリア形成に有用であることは前述のとおりですが、薬剤師は転職に迷ったら事前に決めておかなければならないことがあります。
いったん、転職活動が始まると、多くの薬剤師は転職サイトを利用すると思いますが、エージェントからさかんに営業をかけられます。
転職エージェントはひたすら年収の高い職場を紹介してくるでしょう。なぜなら、彼らの手数料もそちらのほうが高いからです。
はじめは聞き流しているつもりでも、年収の高さのメリットや職場の雰囲気の良さなどなど、聞いているうちにだんだん勧められる職場に転職したほうが良い気になってくるから不思議です。
ただし、このまま流されて面接→雇用契約にハンコ、とならないように一度ご自分を振り返ってみてください。
「なんで、転職するんだっけ??」と。
明確な理由もないまま、ぼんやりネットサーフィンしてて、記事を読んでいたら、いつの間にか転職サイトにいて、登録したら、電話がかかってきて、あれよあれよ・・・
そうならないために、ご自身の中で以下の3つを明確にしてから転職活動に臨んでください。
薬剤師が転職に迷ったら年収を上げるために転職すべきか決める
薬剤師が転職に迷ったら、年収を上げるために転職するべきか決めます。必ず、転職サイトに登録する前に決めましょう。
「自分は年収を上げるために今、転職すべきだっけ?」と自分に問いかけてみてください。答えはイエスでしょうか?それともノーでしょうか?
現在の職場の人間関係に悩んで転職しようと思っていたのなら、そもそも年収は重要でないはずです。
もしくは職場が遠くて通勤時間がもったいないと思っていたのなら、近場の転職先を探すべきでしょう。
薬剤師に限らず、社会人なら誰しも年収が気になります。それは別におかしなことでもなんでもありません。
ただし、転職の理由には通常なりません。
現職に就職するときにあなたは数ある職場の中から比較して、現在の職場を選んだはずです。当然、その時に報酬も確認しています。つまり年収に納得して入社したはずです。
ところが、先に「年収が転職理由ではない」と明確に意識しておかないと、コンサルタントに言われるままに、ずるずると高年収求人ばかりを検索することになります。
ライフステージの変化は支出の見直しで対応する
もし、ライフステージの変化(結婚、出産、持ち家など)で収入が足りないと感じるのであれば、まずは支出の見直しを図るべきです。
入社時とは結婚や出産などで事情が変わるといったことは、誰にでも起きることです。ただし、結婚したから収入が足りない=転職とはなりません。まずは本当に必要な費用と削減できる費用を切り分けましょう。
支出が増えたから転職して収入をあげようとするのではなく、支出が増えたなら生活を見直すべきです。無駄な支出を洗い出し、節約できることを検討し、それでも収入が足りないのであれば転職もよいですが、しっかりとした見直しをせずに、安易に転職で解決しようとしてはいけません。
税金や補助金まで考慮すると年収額面アップの生活に与える効果は少ない
これは意外と意識されてないかもしれませんが、額面年収のアップは、生活水準をそれほど向上させません。
日本は累進課税(年収が上がるほど税率もあがる)、かつ各種社会保障制度も高年収ほど少ないので、額面年収の増加は、実はさほどあなたの生活を改善しません。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
上記の通り所得税は年収の増加に伴い、税率があがります。当然、税額はもっと上がります。さらに住民税や社会保険料、雇用保険料の合計約20%がかかります。
以上を考慮すると年収アップする転職とはいえ、生活水準に与える影響は少なくなります。
また、転職初年度は前年年収で社会保険料等が計算されますので、手取りで結構増える場合もありますが、翌年以降、転職後年収で手取りをみると、転職前とあまり変わってないことに気づくと思います。
転職は良くも悪くも人生を変えます。たかが数十万~の年収アップのためにご自身の人生を安売りしてはいけません。
薬剤師が転職に迷ったら年に何回実家に帰るか決める
薬剤師が転職に迷ったら、転職サイトに登録する前に、年に何回実家に帰省するか決めましょう。
これだけ聞くと、なんでなのか不思議に思うかもしれません。
ただ、ここで伝えたいことは労働条件通知書などの転職先の待遇、条件に書いてないことを決めておく、ということです。
企業が求人票を作成する際に給与や手当、休日や労働時間数など、必須の記載項目は規定されます。ただし、年に何回実家に帰れるか、などのようなファジーな情報は通常記載されません。
例えば年に2回は帰省したいとか、親が心配するのであまり遠隔地の転勤はできないとか、水曜日は習い事があるので残業できないとか・・・
あなたにとってはそれほど重要とは思えず、わざわざ転職時に伝えなくても良いと思われることでも、特にお休みや異動に関することは転職先に伝えておいた方がよいでしょう。
求人票に記載されてない項目は事前交渉が有効
求人票に記載されていない項目は事前に伝えておくことで、条件交渉はスムーズにいきます。通常、採用企業側ものめない条件は元から記載してあるので、記載していないということは(よっぽどのことがないかぎり)相談可能です。事前に伝えておくと、あっさり認めてくれることが多いです。
逆に、就業してから「実は・・・」と言い出すと、採用担当者も認めづらくなります。採用した後は自社の社員なので、他の社員とのバランスをとる意味でも特例は認めづらいです。
年収、職場の人間関係、キャリアなど迷ったときには実家に戻る
キャリアに迷ったとき、人生に迷ったとき、ルーツに帰ると言いますが、仕事に疲れたら実家に帰省するのもいいですよ。自分を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
薬剤師が転職に迷ったら将来独立するか決める
薬剤師が転職に迷ったら、将来的に独立するのかしないのか、転職サイトに登録する前に決めておきましょう。
私は薬剤師の独立支援をしているので、当然、独立すべきだと思います。ただし、それは個人個人の考えなので、ご自身の中で、自分が独立するのかどうかは決めておくと良いです。
薬剤師が独立を視野に入れると、必要なキャリア形成が変わる
薬剤師が独立して薬局を開業するのには多くのスキルが必要になります。私は以下の4つのスキルが薬剤師が独立して薬局を開業する際に必要だと考えています。
- 管理薬剤師として薬局を運営するスキル
- ファイナンス、会計、経理といった経営数字に関するスキル
- マネジメント、教育など部下を育成するスキル
- 対患者、対医師、対取引先など多様なコミュニケーションスキル
独立を希望する薬剤師の多くは管理薬剤師経験者です。また、マネジメント経験豊富な方も多いです。よって身につけるべきは経営数字に関するスキルと多様なコミュニケーションスキルになります。ここでは詳述しませんが、簡単には以下の通りです。
経営数字は大規模チェーンのマネジメント層や中小薬局の経営層になると身に付くことが多いですが、どちらもポジションにつくまでに時間がかかるので、独学も可能です。
例えば簿記や財務に関する資格取得を目指して勉強するのも良い方法です。
また、多様なコミュニケーションスキルは薬剤師がドラッグストア、薬局、病院という風に職種をまたいでいくと身に付きやすいです。コミュニケーションの対象や方法、コツが異なるからです。ご参考になさってください。
経営や会計の知識が身につけたい場合は、投資もおススメです。自分のお金がかかってる分、損したくないから、本気になります。あんまり、勉強っぽくとらえると、続かないかもしれませんね。
薬剤師が独立を視野に入れると直近年収の重要性が下がる
皆さんご存じの通り、どの業種でも社長はお金持ちです。単純に。
薬剤師の方はさんざん見てきたと思いますが、薬局の社長ももちろんお金持ちです。
よって、薬剤師が独立して薬局の経営者になろうとするのであれば、その過程の年収は正直あまり重要でなくなります。むしろ、独立が上手く行くように必要なスキルを手に入れたり、人脈を構築するといった目的で転職すべきです。
逆に100万、200万程度の年収の上昇は、あなたが社長になれば、どうでもいいことだったと気づきます。
薬剤師が転職すべきタイミング
ここまでは薬剤師が転職に迷ったときに事前に決めておくべきことについてお伝えしました。ただ、薬剤師はいつ転職すべきなのでしょうか。著者の考える目安は以下の通りです。
- 5年後、10年後に目指すべき自分と言える先輩が見つからないとき
- ポジションが停滞し、新たな学び、成長がなくなったとき
- 自分の想定するキャリア、ポジションに到達したとき
薬剤師として目指すべき先輩がいないなら転職を考える
自分がその職場で5年、10年と経験を積み重ねても目指すべき先輩(ポジション、能力)がないときには転職を考えます。
職場の先輩の姿は未来のあなたです。こんな風になりたくない、そう思う人に囲まれているとしたら、あなたは一刻も早く転職を考えるべきでしょう。
反対に自分に足りないスキルを身につけたり、あこがれのポジションについている先輩がいる場合には、まだ転職の時期ではないかもしれません。
薬剤師として新たな学び、成長が得られなければ転職を考える
自分が成長していないでやりがいもなく働き続けているとしたら、あなたは自分の命をお金に変えているだけです。大切な命なので、自分の新たな学びや成長を得るために使いましょう。転職はとても良いきっかけになるかもしれません。
自分の想定するキャリア、ポジションに到達したときに転職を考える
現在の仕事が明確にキャリアアップのためであれば、目標とするスキル、ポジションを手に入れた時が転職を考えるときです。キャリステップのために次のポジションを探しましょう。ネクストキャリアもしくは起業を準備する時期です。
薬剤師にとって転職がすべてではない。あなたはあなたのままでいい。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回は薬剤師が転職する前に決めておくべき事や転職すべきタイミングについてご紹介しました。
繰り返しになりますが、いったん転職活動が始まってしまえば、あなたのキャリアを考えてくれるのはあなたしかいません。採用企業はあなたを採用することに、転職エージェントはあなたを転職させることに注力します。
あなたのベストキャリアを実現するために、あなたが充実した薬剤師人生を送るために、転職するときには事前準備をしっかりしてください。
薬剤師に限らず転職は人生の転機になり得る重大イベントです。あなたが薬剤師として転職を存分に活用し、理想のキャリアステップを歩めることを願っています。