薬局売却と不動産問題|所有・賃貸・立地リスクの整理と解決策

薬局売却と不動産問題 薬剤師独立

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はじめに

薬局を売却する際に避けて通れないのが「不動産問題」です。
薬局は立地が経営に直結するため、売却交渉において不動産の所有形態や契約条件は重要な評価要素となります。

  • 薬局物件が「自己所有」か「賃貸」か
  • 土地・建物の所有者が誰か
  • 契約更新や立ち退きリスクがないか

これらの要素によって、売却価格や交渉条件が大きく変わります。
本記事では、薬局売却に伴う不動産問題を整理し、実務的な対応策を解説します。

皆さん、こんにちは。YAKUDACHI鈴木です。
薬局M&Aにおける不動産の取扱いで主な論点は2つです。
一つは賃貸借契約の内容で、CoC条項や事業用定借か普通賃貸借かと言った論点。
もう一つは株価への影響を賃貸か所有かでどう処理するかです。
以下、詳しく見ていきます。


不動産問題が薬局売却に与える影響

  1. 立地の価値
    • 医療モール・門前クリニック併設の立地は高評価
    • 患者数の安定性に直結
  2. 所有か賃貸か
    • 自己所有物件は売却スキームがシンプル
    • 賃貸物件は契約条件次第で承継リスクが発生
  3. 契約リスク
    • 定期借家契約や更新制限がある場合は価値が下がる
    • 家賃増額リスクや立ち退きリスクも買い手の懸念要素

不動産が自社所有でない場合、賃貸借契約の中で、M&Aがどう規定されているかが、まず論点になります。
典型的な事業用不動産の賃貸借契約では「CoC条項」といって、賃借人に対して変更の制限がつけられています。
M&Aそのものが事前承認となっている場合もあれば、代表者の変更が規定されている場合もあります。
まずは自社の締結している賃貸借契約を確認しましょう。
不動産契約が更新不可であれば、そもそものM&Aの実行が不可能となりかねません。

もう一つの論点は、事業用定借か普通賃貸借かです。
日本の悪しき契約慣習で、先進国にはあるまじき弱者保護が、少なくとも普通賃貸借ではなされています。反面、事業用定借であれば買い手は一定リスクを計算せざるを得ず、それはダイレクトに株価に反映されます。

余談ですが、事業譲渡の場合、不動産契約を更新する必要があります。この「更新」ですが、ただの賃借人の変更なので「原契約」の賃借人欄を変更するだけで足ります。つまりペライチの覚書一枚でよいということです。ここで登場するのが、地元の不動産屋さん。彼らの収入はもちろん手数料ですので、対象不動産オーナーの窓口かのような顔をして登場します。
二言目には「契約更新はウチでやっときますね!」とまるで親切心からのように言いますが、シンプルに更新手数料が欲しいだけです。あっさりスキップして「オーナーと覚書締結するので不要です」と一刀両断にしましょう。
地主さんに菓子折り持ってご挨拶すれば済む話が、不動産屋に依頼すれば数十万円の更新手数料です。
おまんじゅうが数十万なので、どっちが高いかは明白ですね。


自己所有の場合の対応

  • 不動産ごと売却
    → 薬局事業と不動産を一括売却する方式
    → 不動産価値を反映しやすく、買い手にとっても安心感がある
  • 事業のみ売却
    → 不動産は経営者が保有し、買い手に賃貸する方式
    → 将来の賃料収入を確保できるメリット
    → 長期的な賃貸契約を結ぶことで買い手の安心を担保

自己所有不動産の評価は、薬局M&Aにおける論点の一つです。
買い手は不動産会社ではないので、不動産オーナーになりたいという願望はないでしょう。
買い手の一方的な目線では、事業用不動産の所有とは「不動産賃料が不要な分の費用の減額」としてしか評価されません。
一般的にはM&Aの価格形成はマルチプルにより、収益力の数倍といった評価です。
つまり、仮に収益力の5倍とすると、所有不動産の株価に与える影響は賃料の5倍となります。
不動産の利回りに割り戻せば20%となります。言い換えるとメチャクチャ割安に評価されるということです。(東京23区であれば商業用不動産の平均利回りは4~5%程度、つまり4~5倍)
売り手としては、対応策は2つ、一つは買い手との交渉で不動産をマルチプルから外して、交渉すること。(そして、この方法は往々にして上手く行きません)
もう一つは法人所有の不動産を自分個人で買い上げて法人に賃貸することです。
ここで更に不動産取得税等の税制の問題がでてきます。
金額が大きい場合には会社分割して不動産とそれに対応する債務を新会社に移管して、譲渡対象から外すといった対応がとられます。
会社分割は、高度なスキームの為、利害関係人による否認や税務リスクと言った論点が残ります。必ず、専門家と協議したうえで進めましょう。
詳しくはこちらのお問い合わせフォームよりご連絡ください。専門弁護士、税理士、司法書士と連携してご相談に応じます。


賃貸の場合の対応

  • オーナーとの交渉
    → 契約更新や条件変更を事前に確認
    → 売却前に承継可能な契約に整えておくことが重要
  • 契約条件の見直し
    → 定期借家契約の場合、更新が保証されないため売却価格が下がる
    → 普通借家契約や長期契約への切り替えを検討

事業用定借を普通賃貸借に変更するメリットは少なくとも不動産オーナー側にはありません。(借地借家法という前近代的な法律が存在)受け入れるなら、それはイコール賃料増額でしょう。そもそも事業用定借を選択している以上は、普通賃貸借のリスクを考えた上と思われます。交渉は難航することが容易に想像できます。
反面、敷金増額の上、契約年数の延長であれば不動産オーナー側も受け入れやすいと考えられます。
不動産オーナーが定期賃貸借にする大きな理由は、不当な立ち退き拒否の排除です。当該事象を保全するに十分な敷金が設定されれば、オーナーも応じやすいと言えます。(賃料アップの方が話が早いですが、賃料は株価の算定根拠なので、買い手からすれば買収の前提条件がくずれてしまいます。)
余談ですが、この賃料アップではなく敷金という感覚は、大手由来かもしれません。
大企業であれば、敷金程度のキャッシュフローは無視です。つまり、影響を考える必要がありません。反面、稟議申請した収支計画を変更することは、結構ハードルが高いです。不可能ではないですが、担当者からすると出来れば避けたい選択肢となります。
この辺の理解は、交渉においてとても役に立つと思います。
交渉相手の状況を理解すると、提示できるオプションが増え、効果的になると言えます。


実務対応ステップ

  1. 不動産の権利関係を確認
    • 所有者・登記簿謄本・抵当権の有無をチェック
  2. 契約内容の整理
    • 賃貸借契約書の更新条件・解約条項・賃料改定条項を確認
  3. オーナーとの協議
    • 売却後も契約が継続できるよう事前調整
  4. 専門家の活用
    • 不動産鑑定士や弁護士を交えて契約リスクを精査

M&A仲介を利用する場合はこのあたりはデフォでチェックするので売り手さんは作業が発生しません。(ヤヴァイ仲介をのぞく)
また、買い手が大手の場合も心配なく、どうせ相手方の担当者から資料提出を求められるので勝手にチェックされます。(賃貸借契約書はM&Aの検討資料の必須項目です)


成功事例と失敗事例

成功事例

関東のA薬局は、不動産を自己所有しており、事業と不動産を一括売却。
買い手にとって安心感があり、高値での売却を実現した。

失敗事例

関西のB薬局は、賃貸契約が「定期借家契約」であり、契約更新が不透明。
買い手がリスクを懸念し、売却価格が大幅に下がった。

ちょっとこの失敗事例に関連して。
事業用定借というと、ここまでは賃借人を更新時に追い出せる、そんなメリットのための契約として論じてきました。概ね正しいんですが、ひとつ注意が必要なことがあります。
それは、そもそも一部企業は、自社所有不動産を賃貸に出すときに定借がデフォだということ。
つまり、定借で契約するけど、特段の事情がない限り契約更新するということ。(契約期日で追い出す気なんてさらさらない。というか会社がデカすぎて個別の不動産契約に意志なんかない)
ここを理解していないと、買い手が変にうがった見方をして、買えるはずの案件を買い逃したりします。(逆に言えば売り手は売れたはずの案件が売れない)
不動産オーナーの属性によって、契約の意味するところは違うので、しっかり確認しましょう。著しく不利な扱いを受けることがあります。


実務チェックリスト

  • 不動産が自己所有か賃貸かを整理したか
  • 登記簿謄本で権利関係を確認したか
  • 賃貸契約の更新・解約条件を精査したか
  • 不動産オーナーと事前に交渉したか
  • 専門家による契約リスクの評価を受けたか

まとめ

薬局売却における不動産問題は、価格や交渉条件に大きく影響します。

  • 自己所有なら不動産ごと売却か、賃貸スキームを選択
  • 賃貸なら契約リスクを整理し、承継可能な条件に整える
  • 権利関係や契約内容を早めに確認し、専門家を活用する

いかがでしたでしょうか。薬局M&Aにおける不動産関連の論点を網羅的にご紹介しました。正直、初見では少し難しい印象があるので、メンドクサイ人は専門家に丸投げでよいです。特に不動産まわりは一方的に買い手に有利とかいった問題ではなく、多くは売り手買い手双方に関連する話題です。買い手が大手であれば、そもそも買い手にお願いしても良いですね。もちろん、当社にご依頼いただければ私があなたの味方になります。是非こちらのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

次回は「薬局売却と雇用契約整理|従業員の安心を守りながら進める実務ポイント」をお届けします。M&Aではどうしても後手になりがちな従業員対応ですが、失敗すると影響も大きいです。是非ご参照ください。