薬局売却と株主対応|合意形成とトラブル回避の実務ポイント

薬局売却と株主対応 薬局 M&A

Contents

はじめに

薬局を売却する際、経営者一人の意思決定で進められるケースもあれば、複数の株主が関与しているケースもあります。
特に法人化している薬局では、オーナー家族や親族、投資家などが株主となっており、売却の合意形成が不可欠です。

株主対応を誤ると、売却プロセスが停滞したり、後に法的トラブルへ発展したりする可能性があります。
一方で、適切に合意形成を図れば、スムーズな売却と高い企業価値評価につながります。

本記事では、薬局売却における株主対応の重要性と実務上のポイントを解説します。

皆さん、こんにちは。YAKUDACHI鈴木です。
今回は薬局M&Aにおける株主対応についてです。
一般的な上場企業のM&A(TOB)の場合には、買収交渉の企業側の窓口は経営陣でしょう。
たとえば、私がTOYOTAの株主であっても、M&Aの交渉窓口になるのはTOYOTAの社長であって私ではありません。
ただし、通常、薬局のM&Aの場合には社長=株主であるケースが多いのも事実です。
社長が唯一の株主で、発行済み株式の100%を持っている場合には、特に株主対応ということはありません。なんせ、交渉相手の社長がイコール株主ですから。

薬局M&Aで株主対応が論点となるのは、複数の株主に株式が割れている状態です。
多くの場合には相続(対策)で株が割れているケースでしょう。
株主が複数いる場合には、それはもちろん、それぞれの株主に言い分があるわけで、皆さんに納得いただくのは結構至難の業です。(そして、その仕事は我々M&A仲介が担ったりします・・・)
株主が割れているケースで、もっとも困難な事例は「過去に他社が一部出資している」ケースです。
これはM&Aの業界で「マイノリティ」と呼ばれている手法で、スムーズな承継とは程遠い状態・・・。出資を受け入れる時点では、「20%程度までなら、会社経営に決定権ないですから~」とか旨い事言いますが、いざ、その株を取り返そうとするとイバラの道です。

私も前職では大手チェーンのM&A担当でしたが、マイノリティ案件はやりたくなかったです。どうせ案件進んできたら、止まるよね・・・。うん、やっぱり止まったね。言ったよね、オラ!みたいな。
マイノリティの場合には、そもそもの企業価値評価と、マイノリティの出資額がズレるという致命的な欠点があります。(当たり前ですが、他社がマイノリティで出資する際の評価額は、私には無関係なので「○○億円」で10%だったとか言われても、知らんがなの一言です。)

もしあなたが薬局経営者の場合、いつか将来マイノリティ出資の話がくるかもしれません。
悪いことは言わないので、受け入れてはいけません。余計なトラブルに巻き込まれたくなければ。


株主対応が重要な理由

  1. 議決権の存在
    • 株式譲渡・事業譲渡には株主総会の承認が必要なケースが多い
    • 特に事業譲渡は会社法上、特別決議(3分の2以上の賛成)が必要
  2. 株主間の利害調整
    • 売却価格や条件について株主の意見が対立することがある
    • 経営に関与していない株主の不満が噴出するケースも多い
  3. 将来のトラブル防止
    • 売却後に「合意がなかった」と争われると、契約無効や損害賠償リスクにつながる

薬局の事業譲渡に限って言えば、売る側は株主総会決議が必要です。(細かな規定はありますが)
株主が割れてない場合は、ただの書面上の手続きなので司法書士さんとかにまかせっきりでOKです。
もし、株主が割れている場合には・・・特別決議が必要になるので議決権の3分の2以上の賛成が必要になります。正確には「行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による多数の賛成が求められる決議」が特別決議です。(詳しくはeGov

当たり前ですが、通常M&Aでは株主全員の賛成が前提なので、特別決議が通ったからOKとはなりません。


売却スキームごとの株主対応

  1. 株式譲渡の場合
    • 株主が保有する株式を買い手に譲渡する
    • 全株主の同意が理想だが、定款や株主間契約で制限がある場合は事前確認が必須
  2. 事業譲渡の場合
    • 株主総会の特別決議が必要(議決権の3分の2以上)
    • 少数株主が反対しても一定条件下では売却可能だが、後に訴訟リスクあり
  3. 会社分割の場合
    • 株主総会の承認が必要
    • 複雑な手続きが伴うため専門家の関与が不可欠

株式譲渡の場合の事前承認ですが、デフォの定款は譲渡制限ありなので、多分あなたの会社も定款(金庫の奥深くにあるはず)にも譲渡制限が規定されています。
なので、株式譲渡の場合には取締役会にて事前承認が必要です。
とは言え、通常は司法書士さんに丸投げでOKです。

ちなみに③の会社分割ですが、詳細は割愛しますが、時間もお金もかかります。
通常、会社分割する場合、債権者保護の手続きが必要になるからです。
具体的には、金融機関(と医薬品卸、その他業者)の事前承認が必要になります。
債権者からすると、分割後の会社に十分な収益力や担保能力が確認されなければ、シンプルに否認するだけです。
税法上のメリットがあるのは事実ですが、薬局のM&Aではあまりお目にかからないスキームになります。(数十億規模であれば、珍しくないです)


実務対応のステップ

  1. 株主構成の整理
    • 誰が何株を保有しているかを明確化
    • 議決権割合を把握
  2. 株主への説明
    • 売却の背景・メリット・条件を資料化して説明
    • 早めに意見を聞き、不安を解消
  3. 合意形成のプロセス設計
    • 株主総会を適切に開催
    • 決議の方法や議事録の作成を徹底
  4. 専門家の活用
    • 弁護士・M&Aアドバイザーを交えて手続きを進めることで客観性を担保

②各株主への説明は慎重になるプロセスです。
事前に、しっかり情報収集して、各株主の状況を整理しておく必要があります。
人間なので、論理的な判断よりも感情面の方が優位な方が多く、人によってはそもそも難しい株価の算定方法など示されても、理解できないケースもあります。
正解は誰も興味ありません。
時には詳細な説明など省いて、昔話の話し相手になり、最後は頭を下げてお願いする。その方がスムーズだったりもするんですよね。


成功事例と失敗事例

成功事例

関東のA薬局は、株主の親族間で早期に意見調整を実施。
税理士を交えて売却益の分配方法を明確化し、全株主の合意を得て高値売却を実現。

失敗事例

関西のB薬局は、一部株主に事後報告をした結果、反発を受けて訴訟に発展。
裁判で売却差し止め請求が出され、最終的に買い手が撤退した。


実務チェックリスト

  • 株主構成と議決権割合を整理したか
  • 株主への説明資料を準備したか
  • 売却の背景とメリットを明確に伝えたか
  • 株主総会を適切に開催し、議事録を作成したか
  • 弁護士や専門家を交えて合意形成を行ったか

まとめ

薬局売却における株主対応は、単なる法的手続きではなく、合意形成を通じてスムーズな売却を実現するための重要なプロセスです。

  • 株主構成を整理し、早期に説明・合意形成を図る
  • 売却スキームごとの株主決議要件を確認する
  • 専門家を交えて透明性の高い手続きを進める

いかがでしたでしょうか。
今回は薬局M&Aにおける株主対応についてお届けしました。
とちると決定的なので株主対応は慎重に。

次回は「薬局売却と競業避止義務|売却後に制限される範囲と注意点」をお届けします。悪意ある売り手でなければ、あまり問題になることはないですが、過去には買い手とトラブルになった事例もあるので注意が必要です。