薬剤師が教える薬局M&A案件鑑査のやり方

資料検討 薬剤師独立




いつかは独立したい。もしくは、現に独立しようとしてM&Aを検討している。そんな方を対象にこの記事を書いています。

こんにちは。合同会社YAKUDACHIの鈴木重正と申します。

私はM&Aを利用して薬局を取得し、現在は一つの薬局のオーナー兼管理薬剤師として勤務しています。(その後、もう一社取得して現在は二社運営しております。)

私の場合は、複数のM&A案件から一つの薬局に譲受候補を絞りました。恐らく前段階で検討していた薬局は全て黒字運営可能だったのですが、決め手となったのは近隣医療機関の診療科でした。

この記事に含まれるM&Aに関する数字、場所などは秘密情報に該当するため、実際のものとは異なります。以後、特に断らなくても秘密情報に関しては特定できないよう加工して記載しています。

薬局M&A案件各種検討資料の使い方

実際にM&A案件の検討を進めていくにあたっては譲渡法人(=売り手)から様々な資料を提示して頂きます。調剤薬局のM&Aの場合は代表的な資料として以下のものがあります。

  • FS各種(法人PLもしくは部門別PLや法人BS、固定資産台帳、リース明細など)3期分程度
  • レセプト(医療機関別、調剤行為別)3期分程度
  • その他(賃貸借契約、Dr情報、賃金台帳ほか従業員情報)

FS各種精査

M&A案件を検討する際の基礎資料として各種FS(Financial Statements:財務諸表)があります。薬局に限らず全てのM&A案件において検討のベースになる資料です。特に薬局M&Aの場合には中小企業が大半を占めるためFSの見方には注意が必要です。少なくとも上場企業のように会計監査を受けているわけではないので企業実態を適切に反映しているかは自分の目で判断しなくてはなりません。(そして実態を不適切に反映している可能性を忘れてはいけません)

法人PLもしくは部門別PL

PLは案件精査のベース資料として重要です。ただし、PLに限らず全ての売り手から提示される資料は売り手(もしくはその税理士、会計事務所など)が作成したものである、という前提があります。特にPLはM&Aの場合、売却対価に直結するため、細かく検証する必要があります。

売り手に巧妙なアドバイザーがついている場合など、売却対価が高く評価されやすいPLを作りこんでいる可能性もあります。

今回は以下の3つのステップで当初PLを譲渡価格およびCFに反映させる方法をご紹介します。

①当初PL→自社運営にした場合のPL

売り手法人にもよりますが、本部経費や内部取引等、自社の運営にする際には修正が必要です。また調剤基本料が変更になる場合もあるので同様にPLに反映します。この最初のPL修正のステップは非常に重要かつ、難しいです。

今回のM&A案件の場合、売り手が大手チェーンだったため部門別PLに様々な費目が計上されていて、PL修正には多くの時間を費やしました。

②自社PL→経年トレンド反映

単年度のPLを3年や5年のトレンドを反映したものに修正します。単年度のPLだと一時的な損益の影響が強く出たり、逆に経年劣化などの反映がなされなかったりするため、修正が必要になります。また、これは調剤薬局業界特有かと思いますが、仕入れ価格の妥結がPLのどの時点に反映されているかも重要です。例えば3か年分のPLを提示されている場合、1年目は未妥結PL、2年目は妥結していて1年目と2年目の値引き合計が入ったPL、3年目は未妥結PLなんてこともあります(この場合、3年分のPLの平均粗利率は悪く見えます)。

今回のM&A案件の場合には先方から3か年分のPLを頂いていたので、売上トレンドを反映しました。また粗利に関しては詳細なデータ提供があったため、問題なく算出できました。

③経年トレンド反映した自社PL→将来CF推定、資金繰り及び融資必要額決定

自社運営した場合のPLをベースにキャッシュの出入りを推定し、大まかな資金繰り表を作ります。通常、独立する薬剤師の場合には融資が必要になると思いますので(そうじゃない羨ましい人もいるかも知れませんが・・・)、融資必要額を算出します。

大きなキャッシュの出入りとしては、M&A代金決済、保証金、敷金その他一時金支払い、売上(現金、売掛)、仕入れ(ほぼ買掛)、家賃、人件費、社会保険料、水道光熱費などがあり、そのすべての支払いタイミングと入金タイミングを把握して現預金残高の推移、つまり資金繰りを作ります。

これは私が上場企業のM&A担当者として常に意識していたことですが、PLはただの資料ですので、資料だけ見てそのビジネスの実際がわかった気にならないようにすることです。あくまで、これまで述べてきた「PL修正」とは自社運営にした場合の実際かかる経費その他の見積もりであって、思い付きで経費節減などしてあたかも高利潤なPLを作り、買収を正当化してはなりません。

今回のM&A案件の場合、私自身、初めての薬局経営だったため、特にキャッシュの出入りは慎重に慎重を重ねて検討しました。サラリーマン(M&A担当者)時代にはキャッシュの心配をまるでしなくてもよい、とても恵まれた環境であったため自分自身のキャッシュに対する意識が低いだろうとの予測がありました。よってこの資金繰りや融資のステップはいつも以上に慎重に(むしろ無駄と思えるくらい)検討しました。結果として現在(2020年2月)このコラムを書いている段階ではM&A後4か月以上が経過しています。資金繰りに関してはかなり余裕をもって融資を受けていたはずですが、結果として想定外費用が発生してしまい、冷や汗をかくときもありました。

YAKUDACHIでは上記3ステップから金融機関に提出する資料作成のサポートまで実施しています。

・法人BS、固定資産台帳、リース明細など

調剤薬局の事業譲渡の場合にはそこまで大きな話題にはなりませんが、株式譲渡の場合には株式価値算定の上で重要な資料になります。買い手の手法によりますが、社内に会計士がいない場合には社外の会計事務所にデューデリジェンスを依頼したほうが良いと思われます。YAKUDACHIでは必要に応じて信頼できる会計事務所をご紹介します。

レセプト(医療機関別、調剤行為別)精査

レセプトはPLの補足として薬価差益の算出に用いるほか、M&A前後の粗利の変動要因を検証するのに用います。調剤基本料が運営法人によって変わるのはもちろんとして、在宅処方箋や在宅に係る点数が算定されていない施設などに届けている処方箋を探すのに用います。

在宅処方箋の特定

在宅医療に関する処方箋は一般的な外来処方箋とは分けて考える必要があります。通常、外来処方箋の数は近隣医療機関との立地に強く依存するためM&A前後で変化しません。ところが在宅医療に関する処方箋は売り手法人が営業力で獲得したものを含むため、M&A後に売り手法人側に残る可能性があります。(施設在宅であれば、1施設飛ぶだけで想定収益が台無しになります)

薬価差益の計算方法

売り手法人の対象薬局における薬価差益はレセプトデータ及びPL売上原価より計算できます。また、仕入れデータを自社の仕入れ条件と照合して計算することもできます。ただし、独立して開業する薬剤師の場合には自社仕入れ条件は特定されていませんので仮定が必要になります。通常、独立する薬剤師の場合、その交渉力は極めて弱いので薬価差無しで見ておくのが安全です。YAKUDACHIでは薬価差益改善ネットワークとも連携しているため、薬価差益を計算する場合は大手チェーン同等クラスの値引き率で計算できます。特に内科、循環器や総合病院門前のM&A案件等では薬価差益が大きくバリュエーションに影響するので極めて有利です。

薬局をM&Aする場合、収益も大切だが、他にも大切なことはある

私の場合は薬剤師のキャリアをスタートした時に、ひとつ決意したことがあります。

自分がどんな薬剤師になりたいか。

これは多くの薬剤師が考えたことだと思います。私の場合は

  • 英語が喋れて外国人にも対応できる
  • 豊富な知識をもっている
  • 知識を的確に伝えるコミュニケーション能力をもっている
  • 医療だけでなく、経営をはじめとして優れた社会人に必要なスキルを併せ持つ

ただし、人生は有限なので手を広げるだけでなく、自分がフォーカスする事を決めなくてはなりません。

わたしが辿り着いた答は、病人のメインは子供か高齢者なので、もちろんどちらもないがしろにはしませんが、もしどちらか選ぶとすれば、自分は子供を選ぶ。つまり、高齢者は選ばないということです。

医師は自分の専門を研修医が終わったあたりで決めるかと思います。

薬剤師が専門を持たずに全診療科の薬剤に精通する、それは理想ですが、現実には不可能です。

どの診療科の薬剤についても中途半端な知識だけしか持たないのに、知った顔して病棟にいればほかの医療人からは認められないでしょう。むしろ自分はココ!という専門領域を決めて、それ以外は浅く学び、困ったときにはスマホなどのデバイスに頼るのが良いと思います。

ずいぶん話が飛びましたが、私は薬剤師キャリアのスタートで子供のための薬剤師になると決めていたので、自分の薬局も小児科メインを選びました。