薬局経営者にとって良い時代は終わった。
1990年~2000年、ちょうど今から30年~20年前に薬局を開業した経営者は幸せだったと思います。
当時、開局する薬局は黒字続きではなかったでしょうか。
当初は技術料も上がり、分業も進んでいたため処方箋数も増加傾向、ただ、最近は報酬改定を経るごとにだんだんと収益が下がってきて、さらにはオンライン診療、オンライン服薬指導や電子処方箋と新たな仕組みの導入と、薬局経営者にとっては悩みの多い時代になりました。
そんな悩める時代の薬局経営者に向けて、今回の記事では新時代の薬局経営者が 直面する環境変化、取り組むべき課題、伸びる薬局(衰退する薬局)の条件を明らかにし、経営判断の一助となればと思います。
Contents
薬局経営を取り巻く外部環境の変化
はじめに薬局業界を取り巻く外部環境の変化について考えたいと思います。
外部環境は、一個人はもとより、業界全体でどう取り組もうとも変えることのできないものです。
よって、環境変化には適応する以外に道はありません。
私の考える薬局業界に大きな影響を与えるであろう外部環境の変化は以下の通りです。
- 人口構成の変化(少子高齢化)、増え続ける社会保障費
- 医薬分業率、GE率ともに頭打ち
- ドラッグストアによる調剤併設
人口構成の変化(少子高齢化) 、増え続ける社会保障費
日本社会の人口構成の変化は言われ古していますが、少子高齢化です。生産年齢人口が減る中で負担すべき社会保障費が重くのしかかってきます。そんな中、現在も増え続ける社会保障費により財政は逼迫し、当然、医療費削減への圧力が高まります。
医薬分業率、GE率ともに頭打ち
1980年には10%程度だった医薬分業率は2000年までの20年間で一気に5倍、50%超まで急速に伸びました。しかし、そこからは緩やかになり、現在は70%台で推移しています。日本全体の処方箋数は伸びる余地がありません。
また、GE率も同様で近年、その伸びは鈍化しており、政府方針の2020年9月GE率80%達成により、薬局へのGE加算もその意味を失います。
ドラッグストアは調剤併設を進めている
既述してきた調剤医療費の圧縮圧力や医薬分業率頭打ち、さらにはGE加算が厳しい状況になる中、大手ドラッグストアは調剤併設を進めています。これは消費税の特例的な取り扱いや、在籍薬剤師の有効活用、買い物ついでに処方薬もといった利便性があるためで、ドラッグストアにおいては現在も既存店への調剤併設の動きは止まりません。既存の調剤専門薬局にとっては、面処方箋の減少としてマイナスの影響となります。
薬局経営に影響する内部要因、テクノロジーの進展
薬局経営に与える影響は外部環境の変化だけではなく、内部要因、周辺テクノロジーの変化もあります。ただし、外部環境の変化と違い、内部要因に関しては自社の取り組み方次第でその影響が変わるといった特徴もあります。
テクニシャン制度
薬局経営に大きな影響を与える変化としてテクニシャン制度があります。いわゆる0402通知(調剤業務のあり方について(平成31年4月2日 薬生総発0402第1号 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長通知)により、薬剤師以外の薬局スタッフにも一部調剤が認められました。積極的にテクニシャン制度を活用することで、業務効率を向上させることができる一方、内服調剤料を始めとした薬剤師の調剤行為に依拠していた調剤報酬は、減額の余地ありと判断されました。2020年の調剤報酬改定で内服調剤料の減額は正式にスタートし、今後段階的に減少傾向は続くと見込まれます。特に総合門前を始めとした、長期処方の多い薬局にとっては、強烈な減益インパクトが予想されます。
オンライン服薬指導、電子処方箋
オンライン服薬指導や電子処方箋の導入もまた、薬局経営にとっては大きな影響を与えると考えられます。先行き不透明なことですが、間違いなく言えることは「紙の処方箋の一部はオンラインに切り替わる」ということ。紙の処方箋と違いオンラインでは、患者が薬局を選ぶプロセスが決定的に変化します。今までのように処方箋を手に持って、薬局を選ぶわけではなく、スマホ画面の操作で薬局を選ぶようになります。(病院の隣の)立地に依存していた薬局にとっては、極めて厳しい影響が考えられます。逆に患者に選ばれる薬剤師、薬局にとっては大きなチャンスと言えるでしょう。
経営を続けるべき薬局、撤退、売却を考えるべき薬局
ここまでは薬局経営における現時点で考えられる外部環境の変化、内部要因や新たなテクノロジーについて考えてきました。以上を踏まえて経営を続けるべき薬局や、残念ながら撤退を考えた方が良い薬局を明らかにしていきます。
経営を続けるべき薬局
現時点で経営を続けるべきと断言できる薬局はありません。前述してきた通り、薬局の経営環境は厳しい逆風下にあります。ただし、有利な薬局は存在します。
- 地域での認知度の高い薬局、老舗
- 駅前など、利便性の高い場所にある薬局
- 発信力の高い薬剤師、薬局
地域での認知度の高い薬局、老舗
地域での認知度の高い薬局、いわゆる老舗薬局はオンライン化に強いと言えます。これは人の購買心理によるものですが、行動を起こそうとするとき(オンライン処方箋送信時)に頭に浮かぶかどうかが、決定的な差を生み出すからです。その点、老舗薬局はその地域の患者さんの意識に深くインプットされているため、いざ処方箋送信をしようとリストを眺めた時などに目に付きやすいです。
駅前など、利便性の高い場所にある薬局
駅前など、利便性の高い場所にある薬局は処方箋の流れが変わっても強いと考えます。病院の隣などの立地は、その価値が弱まりますが、駅前などの利便性は依然として価値があります。オンラインになろうとも医薬品を受け取るその行為は続くため、むしろ、利便性の価値は現在より高まるかもしれません。
発信力の高い薬剤師、薬局
発信力は薬局単位だけでなく、薬剤師個人個人でみても処方箋応需に影響してくることでしょう。テクノロジーの進展は人々の不便さを解消する方向にあるため、例えば、印象の悪い薬剤師にあたりたくない、そんな細かな要望も叶えてくれることになります。ちょうど、ウーバーがアメリカのタクシーを駆逐したように、感じの悪いタクシー運転手の仕事はウーバーという新しいテクノロジーによって、評判の良いドライバーにとって変わったわけです。薬剤師や薬局の応対品質の差は現在よりもはるかに大きな影響を持つことでしょう。
撤退、売却を考えるべき薬局
キャッシュフローがマイナスであれば、シンプルに撤退や売却が決断しやすいです。ただ、判断に迷うのは現在、黒字でも将来的な価値が予測しづらい場合ではないでしょうか。このまま、経営を続けて生み出されるキャッシュを受け取る場合と、すぐに売却して換金した場合を比較しづらい、そんな時にはトレンド(傾向)を考慮するべきです。特に調剤報酬が今後、大きく引き下げられる見込みの薬局は、売却価値が強い減少傾向にあるため、早急に手放す準備を始めなければなりません。下記に挙げるような薬局は今後の報酬改定で狙い撃ちにされる恐れがあるので注意が必要です。
- 処方箋集中率70%超の薬局
- 技術料が1枚3250円を超えるような内科系高単価処方箋を扱う薬局
- ジェネリック医薬品使用率が30%未満の薬局
処方箋集中率70%超の薬局
調剤基本料の規定は集中率に関して、改定を経るたびに厳格化(つまり基本料2,3の範囲が広がる)傾向にあります。現在は単に集中率70%のみでは、基本料2や3には該当しませんが、将来的になんらかのペナルティがつく可能性はあります。例えば現在、集中率85%超で大手は基本料3に落とされます。地域支援加算も外れるので技術料が一枚あたり640円落ちます。恐らく株価は数分の1レベルまで下がります。
技術料が1枚3250円を超えるような内科系高単価処方箋を扱う薬局
内服調剤料も減少傾向が明らかです。今回の改定で初めての大きな減少なので、多くの買い手担当者はトレンドと見ていないかもしれませんが、今後、改定ごとの調剤料減少がわかれば、株価は大きく下がります。特に総合門前のように、処方日数が長いために、高い内服調剤料を算定しているような薬局は、かなり注意した方がよいと思われます。
ジェネリック医薬品使用率が30%未満の薬局
ジェネリックは2020年9月の80%目標でほぼ頭打ちとなると思われます。使用率が上がらないのであれば、当然、加算の原資がないわけで、引き下げは必至です。逆に使用率の低い薬局への減算は拡大しており、今後2段階など幅のある減算規定が導入された場合にGE率30%未満は怖いです。
これから薬局経営を始める人へ
薬局経営は激動の時代に入りましたが、若手薬剤師の中には独立の機運が高まっているように感じています。弊社でも独立希望の薬剤師の方の登録が増えており、確かに収益が厳しくなる中にも希望を感じています。私自身もそうですが、若手薬剤師が自分の労働力を資本として独立するのであれば、まだまだ経営は成り立ちます。オーナー業だけではつらいかもしれませんが、是非、果敢にチャレンジしてください。
薬局経営の始め方
薬局経営の始め方は以下の記事に詳しく書きましたので、ご参考になさってください。
「去年独立した薬剤師が教える、独立の実情はノーリスクハイリターン」
薬局経営のその後は
薬局経営のその後は・・・私には夢があります。
「もうやり切った!」そう言える日が来たら、外国を自分で操船して、釣りしながら巡ります。
たぶん、奥さんは付き合ってくれないので、大型犬を一頭、相棒にしてのんびり船旅をしたいです。
みなさんは薬局経営した後は、何をされますか?
十分働いたご自分へのご褒美に、どんな夢を持っていますか?