薬局は医療機関で、なおかつ株式会社(営利法人)です。
お金に目が眩むばかりではいけませんが、良い会社であればこそ、しっかり効率化しその利潤を拡大、再投資して大きくなるべきです。
なんだか薬局が儲かるらしい。
言われてみれば、大きな病院の前には派手な(下品な)看板の薬局が、ところ狭しと並んでいるし、上場企業の社長、年収ランキングにもランクインしているのを見たことがある。
そう感じたことはありませんか?
こんにちは。薬剤師兼薬局経営者兼M&Aコンサルタントの鈴木重正です。
今回は薬局儲けすぎ批判にも関係する記事です。ちょっと古い気もしますが、今でもそう勘違いして いる人、多いんじゃないでしょうか?
例えば、「薬局 儲かる」と検索すると某病院グループから資金提供を受けて、辞任した有名人の薬局儲けすぎ批判が読めます。
果たして本当に薬局は儲かるんでしょうか。
今回の記事では薬局が儲かっているのか(それとも儲かってないのか)明らかにし、なんで薬局が儲かるのか、どういった仕組みで儲かるのかについて深堀していきたいと思います。
最後までお付き合いいただき、薬局が儲かる仕組みについて理解しましょう。
Contents
薬局は儲かるのか?
薬局は儲かります。
私も薬局を一つ経営していますが、確かに儲かります。というか利益はでます。
ただ、批判されるほど儲かるかと言えば、全然そんなことはなく、一般的な水準かと思います。
まずは客観的な指標として全産業分類から小売業の平均売上高、営業利益率と比較します。
上図は経済産業省が公表している地域別の小売業の売上高、平均営業利益率になります。
これによると小売業を営む中小企業の平均営業利益率は約3.5%となっています。
では薬局の営業利益はどのくらいになっているのか、次章以降で確認してみましょう。
各薬局運営会社の売上、利益
この章では東証一部に上場している調剤チェーン上位3社の決算資料から各社の売上高、営業利益、営業利益率を比較してみましょう。全国小売業の平均営業利益率(3.5%)と比べて高いでしょうか?
売上高(億円) | 営業利益(億円) | 営業利益率 | |
アインホールディングス | 2,926 | 161 | 5.5% |
日本調剤株式会社 | 2,685 | 76 | 2.8% |
クオールホールディングス | 1,654 | 77 | 4.6% |
確かに、若干、営業利益率は全国の小売業平均より高いようですが、あまり大きな差はみられません。
また、今回掲載した3社は調剤薬局業界の中でも突出した業績を残してきていることを考えると、薬局業界全体よりも収益力が高いと推測されます。
薬局全体では、特に儲かる業界ではなさそうです。
医療系他業種との損益比較
それでは薬局以外の医療系他業種と売上高、営業利益率を比較してみましょう。
今回は医療法人運営の無床の診療所、同じく医療法人運営の歯科医院を比較対象としました。
本来、薬局と比較する際には医療法人運営ではなく、個人運営の医院、歯科医院が妥当かとも考えましたが、個人運営の場合にはオーナー院長の報酬が利益の中に含まれてくると考えたため、医療法人を比較対象に選びました。
なお、医療法人は一般的な会社のように売上高や営業利益といった費目がありません。対応する費目は収益、損益差額(医業利益)となります。
収益(万円) | 損益差額(万円) | 損益差額/収益 | |
一般診療所(医療法人) | 15,890 | 994 | 6.3% |
歯科診療所(医療法人) | 9,237 | 854 | 9.2% |
上記の通り損益差額の収益に対する割合(一般企業で言うところの営業利益率)は一般診療所で6.3%、歯科診療所では9.2%ですので、お医者さんも歯医者さんも概ね、薬局よりは儲かりそうですね。
薬局が儲かる仕組み
既述の通り、薬局はお医者さんや歯医者さんよりは儲かりませんが、一般的な中小企業の平均よりは儲かる業種です。
それでは、どんな仕組みで薬局は儲かるのでしょうか?
薬は仕入れ価格が安いから高く売って儲けている???そう勘違いしている方が多いような印象ですが、実は違います。
薬局の取り扱う薬の仕入れ単価は非常に高く、患者さんに渡した際の価格(薬価といいます)とあまり変わりません。
薬局が儲かる理由は技術料というサービス料金です。
薬局は安く仕入れた薬を、高く売って儲けてるのではない
薬は仕入れが安くて、高く売って儲けている。これはよくある勘違いだと思います。
少なくとも薬局で取り扱う医療用医薬品についてはまったく当てはまりません。
なぜなら、医療用医薬品の患者さん(と健康保険組合)に請求する医薬品自体の価格(薬価)は下記の計算式で毎年、更新して決まっているからです。
新薬価= 当該既収載医薬品の診療施設における薬価算定単位当たりの平均的購入価格 +調整幅(旧薬価の2%)
すごく難しい表現で分かりにくいですが、大雑把に言い換えると去年の平均仕入れ価格に2%乗せた値段を次の1年間の薬価にするということ。(実際にはもっと細かなルールがあり、一部の薬価は仕入れ価格+2%までは下がりません)
ここでいう2%は使われなくなった医薬品の廃棄費用や切り替えにかかる費用の為、大雑把に言うと仕入れ価格はほぼ売価(薬価)だということになります。
つまり薬局は薬を売って儲けているわけではない、ということです。
薬局が儲かる理由はサービス料(技術料)
薬局が儲かる理由はサービス料(技術料)です。既述の通り、薬局は薬を売っても仕入れ価格とあまり変わらず儲かりません。
処方箋一枚を取り扱う基本料などサービス料が別に設定されていて、これが薬局の収入を支えています。
サービス料(技術料)は薬局により若干の差はありますが、概ね処方箋1枚あたり2240円(厚生労働省 調剤医療費(電算処理分)の動向の概要~平成28年度版~)となっています。
一般的な薬局では一日に40~50枚の処方箋を受け付けています。つまりサービス料(技術料)として10~12万円ほどの収入があることになります。
薬局がより儲かるようにしている事とは
それでは薬局経営者は、自分の薬局の利益を向上させるためにどんな工夫をしているのでしょうか。
- 収入を増やすためにしていること
- 支出を減らすためにしていること
以上の2点に分けてみていきましょう。
薬局が収入を増やすためにしていることとは
薬局の収入は処方箋枚数×単価です。よって、収入を増やそうと思うと、処方箋枚数を増やすか、もしくは処方箋単価を上げることとなります。
処方箋枚数を増やすには
処方箋枚数を増やすといっても、近くの病院からの処方箋にその多くを依存している薬局の場合、なかなか難しいです。当たり前ですが、薬局が頑張っても、病院の患者数が増えないからです。
ただし、特定の近隣病院以外からの処方箋枚数を増やすことはできます。例えば、高齢者施設に営業して入居者の処方箋を一手に引き受けたり、普段来局している患者さんのお薬手帳などから、他の病院の受診歴を把握し、処方箋を持ってきてもらうようにお願いすることもできます。
また、今後はオンライン診療が普及していくとみられているので、薬局のプレゼンスが向上することで、オンラインでの処方箋受付枚数が増加することになるかもしれません。
処方箋単価を上げるには
それでは処方箋単価を上げるにはどうしたらよいでしょうか。
薬局の独自の努力で処方箋単価を上げるには既述のサービス料(技術料)をあげるしかありません。
医薬品自体の値段は医師の処方で数量が決まり、単価は公定価格(=薬価)なので、薬局側では動かすことができません。
よって、処方箋単価を上げるにはサービス料(=技術料)を上げる努力をすることになります。
サービス料(=技術料)は薬局ごとに違います。(意外と知られてないですが・・・)
国の求める様々な基準により、いくつかの点で加減され、平均すると処方箋一枚あたり2,240円となっています。
例えば、ジェネリック医薬品を積極的に使用している薬局の場合には、加点され、逆にあまりジェネリック医薬品を使っていない薬局は減点されます。
処方箋単価をあげるために、ジェネリックや在庫数、地域活動への取り組みなど様々な努力が必要になります。
薬局が支出を減らすためにしていること
薬局の支出のうち、影響の大きなものは概ね以下の3つです。
- 医薬品の仕入れ代金
- 家賃
- 薬剤師など労務費
医薬品の仕入れ代金の減らし方
薬局で取り扱う医療用医薬品の仕入価格は既述の通り、ほとんど売値(=薬価)と変わりません。つまり、全然儲かりません。
ただし、当然、スケールメリットは効くので大企業の場合には個人薬局よりは安く仕入れることができます。
そこで、一部の薬局は少しでも仕入れ価格を下げようと共同仕入れやボランタリーチェーンのような仕組みを利用します。
これは、あらゆる小売業で見られる傾向ですが、小規模企業がその仕入れ価格を下げようと多くの企業で寄り集まって、まるで大企業のように取引する仕組みです。
弊社YAKUDACHIでは医薬品仕入れの価格交渉ネットワークをご案内しています。ネットワーク加盟をお考えの薬局様は是非お気軽にお問い合わせください。各ボランタリーチェーンの特徴にも精通していますので、比較検討されている方にも情報提供できます。
家賃の減らし方
家賃は基本的にあまり下がりません。不動産はその性質上、そもそも大家さんがあまり利幅を取っていないケースが多く(逆に言えば入居付けを優先したい)、交渉余地が少ないからです。
周辺相場と比較して、著しく高い家賃設定であればまだ交渉できるかもしれませんが、長期的なお付き合いになるであろう大家さんとの関係をリスクに曝すほどのメリットはないケースが多いでしょう。
よって家賃交渉があまり望めないのであれば、そもそも家賃の低い場所で開業するのが良いとも言えます。
診療報酬(調剤報酬)は全国一律の規定となっていて、実は薬局の収入の基準はどこで薬局を開業していても同じです。極端な例で言えば、銀座の一等地(坪単価数千万)でも北海道の僻地(坪単価数十円)でも処方箋一枚の収入は同じになります。
薬局を開業するなら家賃の低いエリアがシンプルに有利です。
余談ですが、東証一部に上場している大手調剤チェーンは4社ありますが、そのうち3社は北海道が発祥です。
薬剤師など労務費の減らし方
労務費の場合、家賃よりも更に値下げ交渉のハードルは高いです。新型コロナの影響で現在はまだ、雇用の継続のためであれば交渉できるケースもあるかもしれませんが、平時にはまず難しいでしょう。
基本的には日本ではなんのスキルアップも無くとも経過年数で一定額昇給するという常識がまかり通っているため、むしろ労務費は増えます。
ただし、新規開業や複数薬局経営の場合には人員構成を効率化することで、低い労務費で運営することが可能となります。
これは多くの場合、薬剤師でないスタッフを雇用し、薬剤師免許の必要ない業務を薬剤師の代わりにやってもらうことで実現します。
以前は行政の指導により、調剤室内での非薬剤師の業務がほぼ認められていませんでしたが、近年、徐々にその姿勢が柔軟になってきており、例えば、錠剤の取り揃えのような単純な作業は、薬剤師免許を持たないスタッフでも行うことができるようになりました。
また、一部の大規模薬局では自動化された調剤機器を導入することにより、そもそも人の手を排除した調剤が実現しています。時代の流れは速いですね。
儲かる薬局の仕組みについて理解は深まりましたか?
最後まで読んで頂きありがとうございました。
私の尊敬する渋沢栄一翁はとても有名な言葉を現代に残してくれました。
論語と算盤
良い会社で良い影響を社会に与えているのであれば、しっかり利益を稼ぎ、もっと大きくなって、より良い影響をもたらすべきです。
高い理想と大きな利益を高いレベルでバランスさせる。あっ、これは私の信念です。(笑)
なお、当社YAKUDACHIでは「そろそろ引退を・・・」とお考えの薬局経営者様、ご自身の後継者をお探しの薬局経営者様に、事業承継を手数料無料にてご提案させていただいております。企業への売却はもちろん、当社には独立希望の薬剤師も多数登録ありますので、是非一度、ご相談ください。お知り合いにも是非、ご紹介ください。