薬局売却の流れと手続き完全ガイド|準備からクロージングまで

薬局売却の流れと手続きガイド 薬剤師独立

はじめに

薬局の売却は、経営者にとって一度きりの大きなイベントです。
しかし、「どんな流れで進むのか」「手続きにどれくらい時間がかかるのか」といった疑問を持つ経営者は少なくありません。

実際、薬局M&Aは 準備からクロージングまで半年〜1年程度 かかることが一般的です。
本記事では、薬局売却の流れを時系列で解説し、必要な手続きや注意点をまとめます。

皆さん、こんにちは。YAKUDACHI鈴木です。
今回は、薬局M&Aにおける売却の流れをお伝えします。
ざーっと薬局売却の全体像をつかむのにはよいと思います。
流し読みして頂ければ、大体、薬局の譲渡を決断してから実際の売却完了まで半年から1年かかることがお分かりいただけると思います。
健康上の理由など、譲渡しなければならない理由がある薬局経営者の方は、時間に余裕をもって取り掛かってください。
なお、当社YAKUDACHIではどうしても譲渡を急がなければならない場合、一時的に経営を代行できる薬剤師を即時出向して対応しています。ご相談はこちらの問い合わせフォームよりご連絡ください。

薬局売却の全体的な流れ

薬局売却の全体的な流れ

薬局売却は、大きく以下のステップで進みます。

  1. 準備段階(売却意思決定・資料整備)
  2. 仲介会社選定・査定依頼
  3. ノンネームシート作成・買い手探索
  4. トップ面談・意向表明
  5. 基本合意契約の締結
  6. デューデリジェンス(買収監査)
  7. 最終契約締結・クロージング

一般的な薬局売却の流れは上記の通りです。なお、②の仲介会社は使わないで譲渡される場合もあります。(その場合にはいきなり④⇒⑦とすすむことも)
また、仲介会社を使ってもトップ面談や意向表明、デューデリジェンスはスキップする場合もあります。
小規模案件でありがちなのは、トップ面談とデューデリジェンスを一緒にして、薬局見学とすることですね。
買い手さんが個人の薬剤師であれば、デューディリジェンスと言われても何を見てよいか、わからないのが当たり前です。
余談ですが、⑦最終契約締結・クロージングとまとめて書きましたが、通常、最終契約からクロージングまで一定期間空いてます。大型案件の場合、多くはこの期間にテナント大家や門前Drなどに一斉に通知する(相手が拒絶することも・・・)ので一番バタバタします。
拒絶された場合や、家賃値上げといった場合に本件譲渡をどう扱うかなどなど、最終契約書はもりもりになります。(だいたい最終契約書のやり取りで担当者は残業三昧です)


薬局売却ステップ① 準備段階

薬局売却ステップ①準備段階

必要な作業

  • 過去3期分の決算書準備
  • 処方箋枚数・売上推移の整理
  • 不動在庫や人員構成の確認

👉 準備不足のまま売却を進めると、評価額が低下するリスクがあります。

実務的には必要資料の確認はステップ②の仲介会社選定後に仲介からの依頼ですすめることが多いです。
ただし、薬局経営者ご自身が自社の決算情報について正しく理解しておくことは必要です。決して仲介会社に丸投げしないようにしてください。
最後に自分の身を守れるのは自分だけです。
株価が高くなると仲介手数料も高くなる」から仲介会社が売り手の味方だと思ったら大間違いです。詳細はここでは書けませんので、お問い合わせください。お近づきになった暁にはお話します。


薬局売却ステップ② M&A仲介会社選定・査定依頼

薬局売却ステップ②
仲介会社選定、査定依頼

ポイント

  • 複数社に査定依頼し、相場感を把握
  • 医療・薬局M&Aに実績のある仲介会社を選ぶ
  • 報酬体系(成功報酬型/着手金あり)を確認

👉 仲介会社選びは売却の成否を分ける重要ポイントです。

ある程度の規模の売り手であれば、買い手は自ずと大手チェーンになるので、仲介無しで直接交渉でも大丈夫です。
大手各社は自社内に情報戦略部門を必ずもっています。社内に会計士や顧問弁護士などM&Aを完結する能力を持っているので、株価算定、売却スキーム構築や譲渡後の税金対策まで全て考えて譲渡プランを作ってくれます。
もちろん、一社だけでなく相見積もりのような形で複数社に打診するとよいですが、2,3社に打診すれば、株価があまりかわらないことに気づくでしょう。
大手はどこも20年以上M&Aをしているので、似たり寄ったりの計算式を使っています。
手数料かからない分、株価に上乗せできる面もあるかもしれません。(なんだか、薬剤師紹介会社と薬局の関係に似てますね)


薬局売却ステップ③ ノンネームシート作成・買い手探索

薬局売却ステップ③
ノンネームシート作成
  • ノンネームシート(匿名概要書)を仲介会社が作成
  • 買い手候補に提示し、興味を持った企業から打診を受ける
  • 薬局の立地・規模・強みを的確にまとめることが重要

ノンネームシートとは、薬局が特定されない程度にマスクされた情報で、買い手に打診するための資料です。
例えば、東北地方主要都市、クリニック門前、処方箋年間約1万枚、技術料月間約220万
のような記載ですね。
あとは譲渡理由やスキーム(株式譲渡か事業譲渡か)などが書かれることもあります。


薬局売却ステップ④ トップ面談・意向表明

薬局売却ステップ④
トップ面談 意向表明
  • 買い手候補と経営者が面談
  • 企業理念・地域医療への考え方をすり合わせる
  • 面談後に「意向表明書(LOI)」が提出される

👉 単に「価格」だけでなく「従業員・患者を大切にしてくれるか」を重視すべきです。

仲介会社が間にいる場合、買い手が初めて売り手社長に会えるのが、このトップ面談です。
実質、この一発勝負で案件が決まるので、買い手担当者が一番ヒリつく瞬間です。
(まぁ、提示した株価で既に結論でている場合もあるのですが・・・そんな気持ちで臨んでは取れる試合も落とすので、毎回全力で行ってました)


薬局売却ステップ⑤ 基本合意契約の締結

薬局売却ステップ⑤基本合意契約の締結
  • 売却条件の大枠(価格・スケジュール・独占交渉権など)を合意
  • この段階ではまだ法的拘束力は弱いが、独占交渉条項が入ることが多い

👉 複数候補を比較したうえで慎重に判断しましょう。

お話段階から法的拘束力のある契約に進むステップになります。
買い手もデューデリ等、費用をかけますし、売り手も一部情報開示などお互いに後戻りしづらい状況になります。また、多くの仲介会社は基本合意段階で中間報酬を算定します。


薬局売却ステップ⑥ デューデリジェンス(買収監査)

薬局売却ステップ6
デューデリジェンス
  • 財務・法務・労務・在庫などを詳細に調査
  • 不備が見つかれば減額交渉の原因に
  • 売却側は事前に資料を整えておくことでトラブル回避が可能

デューデリは案件によって濃淡わかれます。
小型案件で、買い手も個人であればスキップする方が多いです。
大型案件で買い手が上場企業の場合には、結構しんどい作業です。(売り手も買い手も)
ただ、買い手担当はデューデリになれているのでよいですが、売り手のオーナーは通常はじめてのデューデリ。なにが行われるのか事前に知らされていないとびっくりします。
通常、仲介担当者はデューデリ前に売り手オーナーの期待値調整をして、驚かないようにしておきます。


薬局売却ステップ⑦ 最終契約締結・クロージング

薬局売却ステップ⑦
最終契約締結 クロージング
  • 最終契約書(株式譲渡契約/事業譲渡契約)を締結
  • クロージング日に資金決済・株式譲渡・登記変更を実施
  • 買い手企業との統合作業(PMI)を開始

👉 売却後の従業員・患者対応もこの段階で重要になります。

最終契約締結やクロージングは何度やっても、毎回感動します。
私の場合は、買い手担当者、買い手個人、M&A仲介、そして売り手としてもこのクロージングを迎えましたが、いつも思いが溢れます。
会社は色々な人の人生が絡まって関係しているので、外から見ているだけではわからない様々な事情があり、それを巻き込んで譲渡されてゆきます。不思議と幸せな感覚になるんです。


薬局売却に必要な書類一覧

薬局売却に必要な書類一覧
  • 決算書3期分
  • 処方箋枚数推移(レセプトデータ)
  • 在庫・資産台帳
  • 人員リスト・雇用契約書
  • 賃貸借契約書(テナントの場合)

👉 書類が整っているほど「信頼性の高い薬局」と評価されます。


薬局売却にかかる期間の目安

薬局売却にかかる期間
  • 準備:1〜2か月
  • 仲介会社選定〜買い手探索:2〜3か月
  • 面談・基本合意:1〜2か月
  • デューデリジェンス〜最終契約:2〜4か月

👉 合計で 半年〜1年程度 が一般的です。


成功するための3つのポイント

  1. 早めの準備
    → 売却直前ではなく、2〜3年前から財務・在庫・人員を整える
  2. 複数社比較
    → 仲介会社も買い手候補も複数比較してベストを選ぶ
  3. 従業員・患者への配慮
    → 信頼を維持することで、売却後も薬局価値を守れる

まとめ

薬局売却の流れは複雑ですが、正しい手順を踏めばスムーズに進めることができます。

  • 準備 → 仲介会社選定 → 買い手探索 → 面談 → 基本合意 → DD → 最終契約 → クロージング
  • 半年〜1年のスケジュールを想定して行動する
  • 書類整理・従業員対応・税務対策を同時並行で進める

今回は薬局売却の流れについて解説しました。
おおまかに流れを把握しておくと、いざ自分が薬局を売却しようとなったときに準備しやすいと思います。
次回は「薬局売却にかかる税金と相続対策|譲渡所得・相続税の仕組みと節税ポイント」をお届けします。